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生物膜法(担体法)の原理と特徴

2024.04.16

1.生物膜法の原理

生物膜法は様々な材質の生物担体の表面に生物膜を生成・付着させて排水中の有機物を分解する方法の総称です。担体としてはポリウレタン・ポリプロピレン、ポリスチレンなどを円筒状、ボール状、網状に成型したプラスチック素材の充填材や、アンスラサイト、砂、セラミックなどの無機素材や活性炭などの充填材が用いられます。

担体を曝気槽内に固定する方法を「固定床方式」、比重1.02程度の担体を曝気槽内に浮遊して流動させる方法を「流動床方式」と呼びます。固定床方式では処理水が担体の空隙を通過する際に、生分解とともにろ過作用を受けることで処理水SSの低減も可能ですが、定期的な逆洗により閉塞を防止する必要があります。一方で流動床は担体によるろ過作用はなく、処理過程で発生する剥離汚泥や原水中の未分解SSは処理水とともに後段に流出します。

2.生物膜法の技術的特徴

標準活性汚泥法に対する生物膜法の技術的特徴は、以下のようなものが挙げられます。

  1. 微生物が担体に付着して曝気槽内に保持されるため、沈殿槽からの返送汚泥が不要で、維持管理が容易である。

  2. 水量が急に増えても汚泥の流出がなく処理水が安定しており、水量変動に強い。

  3. 担体中での微生物の自己分解が期待され、余剰汚泥の発生が少なくなる場合がある。

  4. 好気性生物膜の下に嫌気性生物膜が形成され、BOD以外に窒素除去が期待できる。

  5. 担体で保持可能な微生物の量が決まっており、おのずと管理できる汚濁物負荷が決まる。

3.流動床方式の処理フローと特徴

ここでは、産業排水処理分野で高負荷対応として広く利用される流動床方式について詳しく説明します。

流動床方式の一般的な処理フローを以下に示します。流動床方式では処理に伴い担体表面で微生物が増殖し、それが剥離することで処理水とともに流出しますので、SSの除去が求められる場合には後段に凝集沈殿処理設備や凝集加圧浮上処理設備を設けます。尚、固定床と異なり担体の逆洗は不要です。

曝気槽出口には処理水と担体を分離するスクリーンを設置します。スクリーン面では下部からの曝気により閉塞を防止します。近年では、流動床曝気槽を数段直列に設置して原水をシリーズで流入させることにより、1段処理よりも高度な処理水を得る多段流動床方式も増えてきています。

標準活性汚泥法と比較した場合の流動床方式の特徴を以下の表にまとめます。

4.立上げ・運転管理上の注意点

<立上げ時の注意点>

流動床方式の運転開始は、短時間で担体に生物膜を付着させることが重要であり、以下の観点で注意をする必要があります。

  1. 担体の浸漬:担体は疎水性であり水に馴染むまでにかなりの時間を要します。全量を一度に投入するのではなく、何回かに分割して投入するのが効果的です。また水に馴染ませ流動を促進するために、消泡剤の添加も効果的です。

  2. 汚泥の投入:担体投入と合わせて種汚泥も投入します。汚泥量が多くても流出してしまい、また浮遊汚泥濃度が高いと生物膜を形成しにくいので注意が必要です。

  3. BOD源の添加:担体・汚泥投入と合わせてBOD源も投入します。排水の一部を投入し、徐々に負荷を上げていきます。

<運転管理上の注意点>

  1. 充填剤の堆積防止:散気状態が不均一であったり、充填材に過度な生物膜が付着すると、担体の流動性が低下します。担体の流動性が低下して曝気槽内に堆積すると、その部分で嫌気化して硫化水素などの臭気源の発生要因となりますので、適切な曝気量や負荷量での管理が重要です。また、原水中に鉄塩やアルミニウム塩などを含む凝集剤、カルシウム塩やマグネシウム塩などの硬度成分が流入すると、担体表面でスケールして流動性が低下します。したがってこれらの流入には注意を払う必要があります。

  2. 充填剤の浮上防止:原水中に油脂成分が多い場合などは担体に付着して浮上する要因となります。油脂を多く含む食品加工排水などでは適切な前処理により油分除去した水を流入させるのが望ましいです。また、原水中に界面活性剤や洗剤が混入すると、発泡による担体浮上の原因となります。この場合は応急的には消泡剤などでの対応が有効です。

  3. スクリーンの閉塞防止:スクリーン表面には担体や剥離した微生物SSなどが付着し、閉塞する可能性があります。したがってスクリーン下部からの曝気により効率的に表面の閉塞を洗浄することが重要です。

上記以外にも、溶存酸素濃度やpHなどの一般的な活性汚泥法での運転管理上の注意点は、流動床方式でも共通して当てはまります。これらを踏まえて適切な運転管理をすることが重要です。

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生物膜法(担体法)は、排水処理設備の能力増強などの解決ができる技術の1つです。担体の選定でお困りございましたら、お気軽にご相談下さい。工場で発生している排水処理の問題や課題を解決し、持続可能な工場運営を目指す一助となれば幸いです。

参考資料:

  • 北川幹夫著「省エネと環境に配慮した産業排水処理」栗田工業出版, 2013年

  • 和田洋六貯「用水・排水の産業別処理技術」東京電機大学出版局, 2011年

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