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ポンプ輸送配管設計とNPSHの計算方法
2024.06.17
1.はじめに
水処理設備において、液体の輸送機器として通常、ポンプが用いられ、非常に重要な役割を果たします。ポンプを適切に動作させ、水処理設備を健全に運転するためには、ポンプの選定や配管設計についての理解を深める必要があります。この記事では、常温の水を輸送する際のポンプの揚程の決め方や、キャビテーションを防止するためのNPSHという概念についてわかりやすく解説していきます。これらの概要を理解することで、ポンプのトラブルを未然に防止し適切な設計・運用ができるようになります。
2.揚程
揚程とは水を送る際に必要なエネルギー(圧力)のことを指します。ポンプ選定において、揚程が不足すると流体が思うように移動できず、過剰でも余計なエネルギーを消費するため、適切な揚程をもつ機種を選ぶことが重要となります。ここでは揚程の計算方法について説明します。例として、ポンプにより、低い位置にあるタンクAから高い位置にあるタンクBに水を送る場合を考えてみましょう。※両方のタンクは密閉ではなく、大気開放とします。
この場合のポンプに必要となる全揚程h(m)は以下の式で表されます。
ここで、右辺の第1項から第4項は以下の意味合いを持ちます。
第1項:吸込側と吐出側の最大液面差(実揚程とも言う)
第2項:ポンプ吸込側(サクション)配管の圧力損失
第3項:ポンプ吐出側(デリべり)配管の圧力損失
第4項:出口の液体の運動エネルギー
以上の式より、ポンプ輸送において、吸込側と吐出側の液面差が大きく、配管圧力損失が大きいほど、大きなポンプ揚程が必要となり、一定量の流体を輸送するのにより多くのエネルギーが必要となります。
3.キャビテーションとNPSH
キャビテーション
今度は下記の図のように、地下水槽Aから地上に設置したポンプで水をくみ上げて、タンクBに輸送する場合を考えてみましょう。吸込側の液面がポンプのサクション配管よりも低いレベルにあると、サクション配管内の圧力は低下します。圧力がある一定値よりも低い値となる(つまり地下水槽の液面が下がりすぎる)と、サクション配管およびポンプ内部において液体が部分的に気化して気泡が発生し、様々な悪影響を及ぼします。この現象をキャビテーションといいます。
キャビテーションによる悪影響の例として、下記のような事象が挙げられます。
振動、騒音:気泡が発生/消滅を繰り返し、ポンプや周辺配管の騒音や振動、流れの脈動を生じます。
ポンプの輸送能力低下:ポンプの輸送効率が低下し、流量や揚程がポンプの仕様よりも低下することがあります。
部品の損傷:ポンプの部品が削られ、最悪の場合は貫通孔や折損に至る壊食現象を生じることがあります。
キャビテーションを防止するために、NPSHという数値を計算し、この値が規定内に収まるようにポンプや配管を設計する必要があります。
NPSH
NPSH(Net Positive Suction Head)は日本語では「正味吸込みヘッド」と呼ばれ、以下の2種類があります。
NPSHave(有効吸込みヘッド):available NPSHの意味であり、液体の蒸気圧に対する余裕分を表します。配置・配管設計時に計算により求めます。
NPSHreq(必要吸込みヘッド):required NPSHの意味であり、各ポンプ固有の必要最小のNPSHを表します。この値はポンプ選定の際にメーカーから提示されます。
「NPSHave > NPSHreq」となるようにポンプ選定、配置・配管設計を行う必要があります。NPSHave(m)は以下の式により計算することができます。
【例:温度25℃の水を地下3mから吸い上げる場合】
温度25℃における水の蒸気圧pvは3,163[Pa]です。サクション配管の圧力損失Δp1を5,000[Pa]となるように配管設計した場合、NPSHaveは以下のように計算できます。
以上より、ポンプのNPSHreqが6.5mよりも小さければキャビテーションは発生しません。但し実際の設計では2~3m程度の余裕を見込むと良いでしょう。
これまで説明したように、NPSHはポンプのキャビテーションを防ぐ上で非常に重要な因子となります。始めてこの概念に触れる方には非常に難しく感じられますが、まずは以下の考えを持つようにしましょう。
NPSHaveは大きいほど良い。
NPSHreqは小さいほど良い。
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参考資料:化学工学便覧 改訂七版 化学工学会編
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