公開日:2024/6/18

最終更新日:2024/6/19

技術者が語る②「バイオマスプラスチックとは」

前回の「バイオプラスチック」についての記事で、『バイオプラスチックとは、バイオマスプラスチック(植物由来プラスチック)と生分解性プラスチックの両方を併せたもの』 と説明いたしました。今回は「バイオマスプラスチック」について、できる限り正しい説明をして参ります。

バイオマスプラスチックとは?

日本バイオプラスチック協会(JBPA)では、「原料として再生可能な有機資源由来の物質を含み、化学的又は生物学的に合成することにより得られる高分子材料」と規定しています。簡単に言えば、バイオマスプラスチックとは素原料がバイオ(主に植物)に由来するプラスチックのことです。
ここで注意しなければならない点が3点あります。

一つ目は、化学的に修飾されていない天然高分子は含まれない点です。これはあくまでも認証上の都合であって、環境対応に不適当などということでありませんので、遠慮することなく有効利用していただきたいとと思います。

二つ目に、素原料の全てがバイオ由来である必要はないという点です。例えばバイオPETのように、バイオ由来のエチレングリコールと石油由来のテレフタル酸を共重合したものでも、バイオマスプラスチックに含まれます。

三つ目に、従来型の石油由来プラスチックに木粉などのバイオマス素材を混錬したものはバイオマスプラスチックに含まれずに、後述する「バイオコンポジット」と呼ばれるカテゴリに含まれます。

前回示したバイオプラスチックの図の中から、バイオマスプラスチックだけに注目した図を示します。

画像提供:(株)日本バイオプラスチック研究所



別の回で各論を述べますが、バイオマスプラスチックの代表的なものには、糖質から酵母による醗酵で得たエタノールよりエチレンを誘導して重合した「バイオPE」、同様にバイオマスエタノールとテレフタル酸から縮重合した「バイオPET」、糖質から乳酸菌醗酵で得た乳酸から作られる「PLA」、トウゴマのひまし油から抽出されたセバシン酸を原料とする「PA610」など多岐にわたります。

なぜバイオマスプラスチックを使うべきなのか

バイオマスプラスチックを使用する意義、さらに正確に言えば、従来型の石油由来プラスチックをバイオマスプラスチックに置き換える意義は、主に3つあります。

まず、石油や石炭などの化石資源を地下から採掘せずに、地表で収穫できる作物を用いることで、手間、つまりそこに費やされる燃料などの付帯的な資源やエネルギーを節約できるという点です。『わざわざ油田を掘らずに済む』と言えば感覚的にも理解しやすいと思います。
また、石油や石炭が限りある資源であることに対して、バイオマス資源は半ば無尽蔵に再生される資源であることにも言及したいと思います。

次に、廃棄物として燃焼する際に発生する二酸化炭素の削減になる点です。
サトウキビの糖質から誘導されたバイオポリエチレンと、石油から作られた従来型のポリエチレンは、どちらも同じ化学構造を有するポリエチレンですから、燃焼させた際に発生する二酸化炭素の量は全くもって等しいです。
しかし、前者の炭素源はショ糖の炭素であり、ショ糖の炭素はサトウキビが大気中の二酸化炭素から光合成で産出したものです。
サトウキビは一年から一年半で収穫される作物ですから、直ちにプラスチックの製造に用いられたとすれば、一年半前までは大気中にあった二酸化炭素を固めて作ったプラスチックである、と思っていただければよろしいでしょう。
たとえ燃やしても、一年半前に大気中にあったものを返すだけのことで、この期間で見れば大気中の二酸化炭素は増えていないことになります。これはよく「カーボンニュートラル」と呼ばれております。
一方で、後者の石油由来ポリエチレンはどうかというと、石油も化石資源と言われるくらいですから、元は生物の成れの果てだということで、実は一種のバイオマスであるとも言えます。
ただ、これはそれこそ、一億年という悠久の時をかけて地中に閉じ込められた炭素源です。これを掘り起こしてきて燃やしたとなれば、私たちの生活の時間軸では二酸化炭素が急増することになります。
つまり廃棄に際して燃やすのであれば、従来型の石油由来プラスチックよりは、植物由来プラスチックの方が温暖化ガスが増えないという論理となります。

三つ目は、必要なバイオマス資源が東南アジアはもちろん、我が国にもあることです。
現在の石油資源の殆どは中東から運ばれてきているのは常識ですが、不幸なことに戦火の絶えない地域であり、そこから資源を運んでくるというのは、我が国の資源確保の視点で言えば決して安定的なこととは言い難く、資源の脱ホルムズ海峡は課題の一つです。
ただ、本稿では政治的なことを議論するより技術論に特化しますので、本件に関してはこれ以上、話を広げないことにします。

画像提供:(株)日本バイオプラスチック研究所

バイオマスプラスチックを取り巻く社会情勢

【地球温暖化】
地球温暖化に関する話題を聞かない日がない、というくらいに全世界的な社会問題となっています。筆者が小中学校の理科で大気の組成について習った時には、二酸化炭素は300ppmくらいであったように思います。
産業革命前には280ppm程度だったものが、今や380ppmと数百年で35%以上も増えたことになります。
筆者の専門は高分子化学なので、本件に関しては他の専門家の言葉に従うよりないのですが、このまま増加し続けると、西暦2100年までに500〜1,000ppmにも達するのではないか、という予測もあるそうです。
実際のところ、大気中の二酸化炭素濃度と地球温暖化の相関性については、依然として種々議論が繰り返されておりますが、人類が排出した二酸化炭素の影響による効果が相当にあるという結論にはなっております。

【パリ協約】
我が国が地球温暖化対策に乗り出したのは案外早く、2002年の京都議定書に日本が批准したことは、世界に対して一定の意味を持つメッセージとなりました。
政府も「バイオテクノロジー戦略大綱」「バイオマスニッポン総合戦略」を打ち出しました。その後の我が国の温暖化ガス削減目標は野心的とも言える数字で、これを達成するためには、各業界それぞれでの努力のみならず、結果が求められます。
プラスチックの分野では、2030年までに、現在使われているプラスチックのうち、197万トンをバイオマスプラスチックに置き換える必要があるとされています。
早々に高い目標を掲げたにも関わらず、従来型のプラスチックからバイオマスプラスチックに置き換えるための法規制の準備は、逆に世界諸国に追い抜かれてしまい、今や後塵を拝する立場になっています。
政府のアクションが遅いだけでなく、将来を見据えるべき民間企業経営者が自ら踏み出せないのも、現在の国情を嘆くべき点だと筆者は考えております。

バイオコンポジットプラスチックについて

素原料の全てでなくとも、一部がバイオマス由来であれば「バイオマスプラスチック」に分類されることについては既に述べました。
これに対し、従来型の石油由来プラスチックにバイオマス資材を添加したものがあります。例えば石油由来のポリプロピレンに木粉や米粉などをブレンドしたものが既に市販されています。これらはバイオマスプラスチックには分類されず、比較的新しい呼称で「バイオコンポジットプラスチック」といいます。

バイオマスプラスチックには分類されませんが、バイオマス資材を用いた分だけ石油由来プラスチックの使用量が相殺されるので、温暖化ガス削減の点ではバイオマスプラスチックと同様の効果が期待できます。
むしろ、バイオマス資材そのものを得るためのプロセスが短い分だけ環境負荷が小さい可能性はあります。
一方で、最終的に人為的な品質管理が及ばないため、季節、土地、品質その他諸々の要因によって品質が一定しないという欠点がありますので、それを理解した上で使用する必要があります。

各企業や団体で種々材料で試作されており、そのバイオマス資材は、米、木粉、竹粉、紙粉、廃パルプ、稲藁、ヤシ殻、焼酎の搾かす、各種野菜類の非可食部分等々、多岐にわたります。
これは、各地域での未利用資源の有効活用としての側面もあると言えましょう。

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金高 武志 (かねたか たけし)

<所属>株式会社日本バイオプラスチック研究所
<専門分野>バイオプラスチックに関する技術全般や プラスチックコンパウンドの処方、- 包装材料です。
https://www.n-bpl.net/