公開日:2024/7/1

最終更新日:2024/7/1

技術者が語る③ 「生分解性プラスチックとは」

以前の「バイオプラスチック」についての記事で、『バイオプラスチックとは、バイオマスプラスチック(植物由来プラスチック)と生分解性プラスチックの両方を併せたもの』 と説明し、前回は「バイオマスプラスチック」について解説しました。後半となる今回は、「生分解性プラスチック」について、できる限り正しい説明をして参ります。

代表的な生分解性プラスチック

生分解性を語る前に理解して頂きたいのは、まず、「崩壊」と「分解」は異なる事象ということです。
前者は、ただ、バラバラと細かくなることだと思ってください。ハサミで切り刻んでもハンマーで叩き潰してもそれは「崩壊」です。一方「分解」というのは、更に、分子レベルで起こる現象であり、生分解性プラスチックで言えば、微生物の働きによって構成物質が低分子量化し、最終的には水や二酸化炭素などにまでなることです。

画像提供:(株)日本バイオプラスチック研究所



生分解性プラスチックは、その構造が『分解されやすいかどうか』だけで決まり、どのような原料に由来しているかは関係ありません。
ポリエステル構造を有するものが多く、「ポリ乳酸(PLA)」、「ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)」、「ポリブチレンサクシネート(PBS)」、「ポリブチレンアジペート/テレフタレート(PBAT)」、「ポリグリコール酸(PGA)」などが代表例に挙げられます。
また、主骨格が多糖類で構成される酢酸セルロース(CA)、改質デンプン樹脂などもありますが、こちらは、元が天然高分子化合物だということでイメージしやすいのではないでしょうか。
ポリビニルアルコール(PVA)は、主鎖がポリオレフィン構造でありますが生分解することが知られています。

画像提供:(株)日本バイオプラスチック研究所


なぜ生分解プラスチックを使うべきなのか

生分解性プラスチックを使用する意義、より正確に言えば、従来型の非生分解性プラスチックを生分解性プラスチックに置き換える意義は、廃棄物処理の選択肢が増えることにあります。
 「廃棄物処理の選択肢」に、いわゆる「ポイ捨て」「不法投棄」は含まれません。生分解性プラスチックへの置き換えが、ゴミ問題の解決になるのか、或いは、ポイ捨てを助長することにならないかという議論がありますが、そういうことではないと思います。

中には、まだまだ、モラルの浸透してない国や、そもそも、ゴミを捨てることに躊躇いのない文化圏もあります。
日本においても、確かにタバコの吸い殻やコンビニエンスストアの弁当殻が捨てられている光景がないとは言えません。
しかし、それは、極一部の心無い人の残念な行為であり、それは材質が、生分解性であるかどうかということではないでしょう。
ゴミを捨てることは、生分解性ということの関係性ではなく、モラル、マナーに基づくものだと思います。

では、具体的には、例えば、育苗ポットや畑のマルチフィルムなどの農業資材は、生分解性素材を使う限りはそのまま畑に埋めてしまえばよく、ポットを外す必要もなければ、ゴミを集める必要もありません。農業人口が高齢化している中で省力化への貢献度は大きいのは明らかです。
植林に際しては、幼木を鹿などによる食害から保護すべくネットを巻いたりします。4年から5年も経てばこのネットは不要となりますが、回収のために、また、山に登ってネットを丸めて下山してというのは、相当に手間だということが想像できるます。やはり、数年で勝手に朽ち果ててくれた方がありがたい訳です。つまり、農業、林業、漁業、土木などの主に屋外で使用され、その後の回収に手間と費用が掛かる様な場面では、生分解性樹脂が大いに役立つのです。

生分解性プラスチックを取り巻く社会情勢

世界的には、ゴミ問題への対策で生分解性樹脂への切り替えが次々と進んでいます。一方で、日本が出遅れているという表現は、この件においては決して正しくはありません。
日本は、ポイ捨てをする人が極めて少ないという優れた社会性があります。世界中に、焼却施設は約2,000拠点ほどあるといわれる内の凡そ1,300拠点、実に世界の65%は日本にあるというデータがあります。そして、殆どのゴミは、自治体によって回収され焼却処分されています。世界随一の焼却炉国とも言えるかも知れません。
焼却するのであれば生分解性は必要ではありません。こうした背景で、前項の様に、どうしても農業、林業、漁業、土木などの用途に需要が限られます。

ゴミのポイ捨てに対してマナーの低いところ、或いは、ポイ捨てはしないけれども、埋め立てが主な廃棄物処理方法であるところでは、ほぼ、永遠に分解しない従来型のプラスチックでは問題があります。
こうした事情で、多くの国では、使い捨てするプラスチック、例えばストローや食品容器などを生分解性プラスチックにする必要性があります。更に、日本から何かを輸出しようと思えば、その梱包材が生分解性でないといけないという場面も多くなってきました。

再び、日本国内に話を戻すと、自然界に流出したゴミでも、プラスチックでもない食品残渣は、一般的には生ゴミと呼ばれ、殆どの自治体では燃やすゴミに区分されています。
家畜の屎尿も、そのまま肥料にされているよりは回収されているところが多いでしょう。それらは水分を相当に含んでおり、そもそも燃えるものではありません。やむを得ず重油をかけたり、分別されたプラスチックゴミを投入したりして、無理矢理に燃やしているところが多いのが事実です。それらが現実的でないと判断した自治体は、バイオガスシステムや堆肥化システムを導入し、そこに食品残渣、家畜排泄物、剪定枝など、諸々の廃棄物を投入し、燃やすことなくバクテリアの力でメタンガスや液体肥料を得たりしています。
現時点では、それらを回収するための袋は、従来のポリエチレン製であり、生分解しないものです。そのため、ゴミの投入口で職員がカッターで袋を切り裂いて中身だけをシステムに投入し、袋は別に燃やされています。手間もかかる作業ですし、決して衛生的な環境とは言い難く、これを、生分解性プラスチック製に置き換えて、その手間を省こうという自治体もあります。今後、広がっていくことは確実でしょう。

生分解する条件について

生分解とは、人間が燃やす代わりに微生物がその酵素を用いて分解するため、当然に微生物が活発な条件下では分解速度が大く、逆にそうでなければ分解が遅くなります。
どのような条件下でも速やかに分解するということではありません。

一例として、ポリ乳酸(PLA)で使い捨てのスプーンを作ったとします。これを洗って卓上に置いたとすれば、強度こそ低下するものの、まず、5年位は原型を留めていることでしょう。
庭の花壇や畑に埋めた場合、おそらくは1年から3年くらいで完全に無くなります。
農村センターの堆肥製造機に投入すれば、その中は微生物の活性が高く、PLAのガラス転移点を上回る温度なので分解は速く、2週間から1ヶ月程度で完全に消滅するでしょう。不幸にして海に流れた場合、ここは温度も低く、塩分もあるので、生物活性は案外小さく、分解には5年から10年位掛かると言われています。更に、深海であれば、分解しないと述べられている報告もありますが、実際には25年から100年位の期間で分解するのではないかと推察されます。

「おそらく」であったり、或いは、期間に幅を持たせた書き方をしましたが、温度、水分量、pH、生物活性など多くの要因で差があるのでピンポイントで説明することができません。
もちろん、生分解性樹脂の種類によってもその分解速度は異なります。分解に要する期間はあくまでも目安に過ぎないとご認識下さい。
つまり、使用環境などを考慮してどのような樹脂を選定すれば良いのか、十分に検討する必要があるということです。
もちろん、使用中にあっという間に分解されては困るという用途もあるに違いないでしょう。

技術者が語るシリーズ

お問い合わせ

profile

金高 武志 (かねたか たけし)

<所属>株式会社日本バイオプラスチック研究所
<専門分野>バイオプラスチックに関する技術全般や プラスチックコンパウンドの処方、- 包装材料です。
https://www.n-bpl.net/