公開日:2024/6/25

最終更新日:2024/6/24

義務化へ向かうサステナ開示 ―日本版基準の草案が公開―

昨今、ニュースや新聞で頻繁に目にする「脱炭素」や「カーボンニュートラル」の文字。
「自分たちに関係があるのか」「何から始めたらいいのかわからない」そんなお悩みをお持ちのご担当者も多いのではないでしょうか。
これから脱炭素経営に向けた取り組みを踏み出すために必要な基礎知識を、わかりやすくお伝えします。

TCFDから発展したIFRS基準

SSBJ基準は、2023年6月に公表された「国際財務報告基準(IFRS)」が設けたサステナビリティ開示基準の日本版と位置付けられます。

現行のIFRS基準は、S1号(サステナビリティ情報の全般的開示基準)と、S2号(気候関連開示基準)からなり、現在多数の日本企業が採用している気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言の4つの柱(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)を、開示の中核として引き継いでいます。
TCFD提言の項目に加えて、温室効果ガス(GHG)の排出については、スコープ1から3までの算定、つまり自社だけでなくバリューチェーン全体の排出量把握を求めています。
また、サステナビリティ関連リスク・機会の監督能力やコントロールに費やす金額、リスクによる財務的影響など、より具体的な証明を要求しているところが特徴です。
財務・非財務報告の統合へ向け、財務諸表と同じタイミングでの開示が求められる点も、企業にとっては新たな注意点となるでしょう。

参照: SSBJ『IFRS S2号 気候関連開示』
www.ifrs.org/issued-standards/ifrs-sustainability-standards-navigator/sustainability-pdf-collection

国内事情に合わせ調整されたSSBJ基準

国際基準検討の進捗を受け、SSBJがミラー機関として「財務会計基準機構(FASF)」の下に設置され、日本版基準の作成を進めてきました。
2023年1月の法改正で、有報及び有価証券届出書の提出義務を負う企業は、サステナビリティ情報を開示しなければならないこととなりましたが、SSBJ基準は、この開示内容を具体的に決めるものとなります。

SSBJ基準草案は、IFRS基準と構成を変えて、3つの基準(ユニバーサル基準とテーマ別基準(一般開示基準、気候関連開示基準))に分けたものの、グローバルに通用する必要を鑑み、要求事項はほぼ整合しています。
ただ、一部は国内事情に合わせて調整した項目があります。

参照: SSBJ『公開草案に対するコメントの募集』、2024年3月29日 
www.ssb-j.jp/jp/wp-content/uploads/sites/6/2024ed01_01.pdf

例えば、GHG排出量スコープ2(他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出)の算定方法には、「ロケーション基準」だけでなく、日本企業が通常用いている電力会社・契約ごとの排出係数を適用するマーケット基準での開示を追加できます。
一方で、IFRS基準がリスク・機会に関わる資産や事業活動の金額か割合を求めるのに対し、SSBJ草案では「規模」という大まかな開示も認めています。

具体的ロジック・数値が求められる今後の開示

これまでのTCFD提言と比較すると、SSBJ基準はIFRS基準と同じく、より具体的な内容かつ科学的なロジックの開示を要求しています。
サステナビリティ関連のリスク・管理に関し、それを監督するガバナンスの効力性や、「非財務情報の財務化」とも言える、リスクの財務影響やリスク管理のための費用の数値化が、ある程度求められます。

GHG排出量などのデータを、財務データと同じ短期間で集計しないといけない点も課題となり、TCFD対応で形式を整えることに必死だった企業にとっては、準拠するまでの紆余曲折が想定されます。

SSBJ基準の適用範囲については、現在、金融庁の金融審議会で議論が重ねられています。
早くて2027年3月期から東証プライム市場の時価総額3兆円以上の企業から適用を開始し、28年3月期に1兆円以上の企業に広げる方向で検討が進められており、順次上場企業全体に広げられていく模様です。

待つよりも、早めの対応を

SSBJ基準の適用対象が、当初は超大企業に限られることになり、他の上場企業にとっては準備への時間に余裕が出たものの、先んじてIFRS基準に準じた開示を始めるグローバ企業も出てくることと予想されます。
期限が来るのを待つよりも、今からGHG排出量スコープ3(事業者の活動に関連する他者の排出)の、より精緻な算定のために、サプライヤーからのデータ取得の態勢づくりに取り組むなど、着実に準備を進めておくのがよいでしょう。
また、これまで多くの企業が取り組んできた、GRIスタンダードをベースとしたサステナビリティ報告や統合報告の必要性がこれでなくなるわけではなく、投資家以外のステークホルダーや環境・社会への事業インパクトも鑑み、情報のユーザーや目的に合わせて、法定開示と任意開示の組み合わせを改めて考えるべきでしょう。

SSBJでは、2024年7月末まで公開草案へのコメントを募集していますので、意見のある方は提出してみてください。
コメントを踏まえて2025年3月までに最終化され、金融商品取引法で定める有報等での開示基準となる見込みです。

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待場 智雄

<所属>ゼロボード総合研究所所長、グローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)理事  
<専門分野>気候変動・エネルギー・イノベーション政策、企業のサステナビリティ戦略・開示

<紹介文>OECD、IRENA、UAE連邦政府、CTCN等で気候変動対策をリードし、国際的に企業・政府のサステナビリティ戦略を支援。