xEVモータの小型、高出力、高効率化を実現するため、市場では大電流、高電圧化と高速高回転化により対応しようとしています。 モータの高速回転化に伴い、高回転域での鉄損増加による発熱を冷却するためにAutomatic TransmissionFluid(ATF)油冷却方式が注目を浴びていますが、接着剤がATF により劣化するという課題があります。今回は河村産業株式会社(以下、河村産業社)とともに、接着剤を使わない絶縁材料「ナムリ®」を通してモータの将来を支える取り組み事例をご紹介します。
xEVモータの小型、高出力、高効率化を実現するため、市場では大電流、高電圧化と高速高回転化により対応しようとしています。
モータの高速回転化に伴い、高回転域での鉄損増加による発熱を冷却するためにAutomatic TransmissionFluid(ATF)油冷却方式が注目を浴びていますが、接着剤がATF により劣化するという課題があります。
今回は河村産業株式会社(以下、河村産業社)とともに、接着剤を使わない絶縁材料「ナムリⓇ」を通してモータの将来を支える取り組み事例をご紹介します。
xEV(BEV、HEV、PHEVを含む)では航続距離の延長や充電時間の短縮など、様々な市場の要求を受け、電動化部品に対する大電流、高電圧化への対応を求められています。
このようなトレンドから、バッテリーの容量改善やインバータにおけるパワー半導体の進化など、数々の革新的な技術が生み出され、xEVを駆動させるモータも様々な進化を遂げています。
特に大電流、高電圧化と、小型、軽量化を両立させるため、モータを大きくするのではなく、内部のロータを高速回転させるアプローチで高出力化を実現しようという流れがあります。
また、モータ技術の進化が進み、xEVモータは永久磁石同期モータ(PMSM)が主流になっています。
永久磁石同期モータ(PMSM)には、表面磁石型と埋め込み磁石型の2種類があります。
表面磁石型同期モータ(SPMSM)は、磁石の磁束を有効に利用できるモータで、埋め込み磁石型同期モーター(IPM SM)は、磁石によるトルクとリラクタンストルクの両方を利用できるモータです。
このモータはロータ(回転子)の中に磁石を埋め込む構造であるため、遠心力による磁石の飛散が起こりにくく、高速回転での使用に向き、安全性も高くなります。
モータを高速回転で運転するためには、インバータによる運転周波数を高くする必要があります。
この場合、高速回転域での鉄損の増加が著しく増大し、発熱に伴う構造部材の強度低下、あるいは絶縁物や回転子を支える軸受の劣化を引き起こす等の課題を有し、モータの寿命を縮めることもあります。
したがって、発生した熱を冷却するために、効率の良い放熱に適したモータ形状や、空冷、水冷、冷媒といった冷却機構が適切に設計されます。
昨今はモータの高速回転化に伴う発熱が一層大きくなる傾向があり、高い冷却効率を実現するために、ATFを用いた油冷却方式が注目されています。
ATFはモータの温度上昇を抑える効果が高く、また潤滑剤としても機能することで熱の発生を抑える効果を発揮することに加えて、高い絶縁性を持つことから高出力化のトレンドにマッチした冷却方式といえます。
一方で、ATFを構成する化学物質がモータに組み込まれた絶縁材料の接着剤と反応することにより、モータの性能を低下させる可能性があるという課題があります。
また、接着剤自体が高温環境で劣化しやすい特徴もあり、モータが高速回転することで絶縁性能や機械的強度が低下することも課題となっています。
このような課題の解決に向けて、NAGASEは河村産業社とともに接着剤を使用しないタイプの絶縁材料のご紹介を進めています。
河村産業社は三重県四日市市に本社を構え、スリット加工やプレス加工、独自のプラズマ表面処理技術や熱ラミネート技術等に強みを持つ企業です。
独自の技術を融合し、モータ向けの絶縁物の製造・開発を進め、近年では、PPSフィルムやPIフィルムなどのプラスチックフィルムと高耐熱性アラミド紙とを接着剤を使用せずに接合させた絶縁材料「ナムリ(Namli)Ⓡ」を開発し、xEVモータ向けの紹介を進めています。
ナムリⓇは接着剤を使わず、耐熱性・耐加水分解性が良い2 層のアラミド紙と、PPSもしくはPIフィルムを使用することにより、ATFによる特性低下を避け、高温環境においても絶縁破壊電圧や引張強度が低下しにくいというメリットを有しています。
ナムリⓇは、まず工程1としてプラズマ照射を用い、アラミド紙、PPSフィルムやPIフィルムの表面を改質し、それぞれの接着性を高めます。
その後工程2として、アラミド紙2層で各プラスチックフィルムを挟んでラミネートした上で連続熱加工を行うこと
により、接着剤を使わずに各層間を接合させます。
このプラズマ処理の技術が河村産業社の技術の肝です。
同技術では、真空プラズマ表面処理において、アルゴン、酸素、窒素などの複数のガスやその混合ガスを用途に
応じて使い分けます。
さらに各種プラズマパラメーターを最適化することで多様な素材の表面改質が実現可能となり、お客様のニーズにオーダーメイドで対応できます。
また接着剤を使用しないため、揮発性有機化合物(VOC)の排出がなく、地球環境負荷の低減にも貢献します。
国内の自動車用途でも採用の実績があり、海外の自動車メーカー様からも引き合いがある状況で、将来的な生産拡大を視野に入れています。
昨今、xEV用モータではモータのスロット内に巻かれるコイルの断面積を増やす(占積率を上げる)こともトレンドとなっています。
占積率が上がることでモータの電力効率が向上したり、小型化に貢献したりするためです。
コイルの占積率を上げるために絶縁材料を極力薄くしたいというニーズも増えています。
接着層がない分、厚みが小さくなるため、剛性が低くなり巻き加工がしやすくなり、また薄くなることで熱抵抗が低くなるという利点もあるためです。
このように接着剤を使わないことで、高出力化に伴う耐ATF性や耐熱性、コイルの高占積率ニーズへの対応など、多角的な観点から今後のxEV向けモータに適した絶縁材料がナムリⓇです。
絶縁事業において確固たる地位を築いている河村産業社とNAGASE は、xEV用モータの未来を絶縁の斬り口から支えます。
ご興味がございましたら、ぜひご相談ください。