xEV(BEV、HEV、PHEVを含む)に搭載されているインバータでは、自動車部品の電動化が進むにつれて、大電流、高電圧化というトレンドが強くなっています。一方で、大電流、高電圧とトレードオフとなる熱への対策や、部品の小型化、軽量化も同時に要求されます。そのような課題に対し、ドイツのSchweizer Electronic社(以下、Schweizer社)とNAGASEが取り組む『部品内蔵』タイプの基板技術についてご紹介します。
xEV(BEV、HEV、PHEVを含む)に搭載されているインバータでは、自動車部品の電動化が進むにつれて、大電流、高電圧化というトレンドが強くなっています。
一方で、大電流、高電圧とトレードオフとなる熱への対策や、部品の小型化、軽量化も同時に要求されます。そのような課題に対し、ドイツのSchweizer Electronic社(以下、Schweizer社)とNAGASEが取り組む『部品内蔵』タイプの基板技術についてご紹介します。
バッテリーの直流電流をモータが使える交流電流に変換する役割を担い、xEVなどに用いられるインバータ。
電気を蓄えるバッテリーや、電気を動力として車体を動かすモータと並んで3 種の神器として注目度が高い部品です。
インバータには車両や機器内の限られたスペースの有効活用や、車両全体の重量を減らすことによる走行距離の延長やエネルギー効率の向上を目的として、他の部品同様に小型化が要求されています。
とりわけ軽量化による電費改善や耐振性を向上させる等の目的から、小型化のニーズが強い部品です。
また、今後のxEVの高出力化に伴い、インバータで変換する電気の大電流・高電圧化の潮流は一層強くなっていくと考えられます。
このような潮流に対応するため、ワイドバンドギャップ(WBG)パワー半導体素子の研究開発が盛んに進められています。
そして、インバータ内のパワーモジュールを構成するパワー半導体のスイッチが高速でオン・オフに切り替わる際、電流の変化を打ち消すように発生する抵抗のインダクタンスを適切に抑えることも、今後のトレンドとして着目されてくるでしょう。
一方、高電圧下で大きな電流が流れると、発生する熱が大きくなり、エネルギー効率や安全性の低下といった様々なリスクやデメリットが発生するため、高い耐熱性を有する部品を採用する、発生した熱を適切に放熱、冷却するなど機構設計にも工夫が求められてきます。
このようにインバータは「大電流化」「高電圧化」への対応として、「小型化」「低インダクタンス化」「熱対策」等、多様なニーズが求められる部品といえます。
これらのニーズに対応するため、NAGASEはドイツのSchweizer社との取り組みを拡げています。
Schweizer 社が開発したp² PACK 技術は、ユニークなアプローチでパワーモジュールが抱える様々な課題を解決する技術です。
p² PACK 技術では、スタンダードセル(S-Cell)という、Schweizer社が開発したパワー半導体チップを銅リードフレームにダイアタッチした部品をプリント基板の内部に埋め込むことにより、基板上にディスクリートタイプのパワー半導体を実装する従来技術と比較し、小型化を実現できます。
基板に内蔵されたS-Cellは、電極を含め無数のフィルドレーザビアにて内層回路と接続されているため、高電流を流して高出力を実現し、また発生した熱を効果的にヒートシンク側へ放出する構造のため、熱損失を大幅に抑制することが可能です。
また、半導体チップが基板内に堅牢に内蔵されている本構造は、従来のワイヤボンディング接続と比較して信頼性も大きく向上します。
さらに、部品内蔵エリア以外で制御回路を形成することが可能なため、ゲートドライブなど制御素子やDCリンクを内蔵パワー半導体の近傍の基板上に配置することができ、パワー回路と制御回路の統合によるコネクタなどの削減や小型・軽量化、配線の短絡化、超低インダクタンスによるスイッチング損失の低減など、様々な側面からパワー半導体モジュールに要求される性能向上に貢献します。
p² PACK 製品は80V のSi-MOSを用い、48VのマイルドハイブリッドEV向けに2022年から量産が始まり、既に欧州で市販の乗用車に搭載されています。
現在は1.2kVSiC-MOSを使用した400-800V系BEV向けインバータ向け製品の2026年量産開始に向けて開発を推進しています。
Schweizer社とNAGASEは2024年10月に名古屋で開催された「オートモーティブワールド」に出展し、数あるSchweizer社の開発事例のうち、チップ内蔵基板の技術を活用した「± 48V系」と銘打つ3レベル方式のインバータへの応用例を展示しました。
これはSchweizer社が世界最大級のパワエレ展示会「PCIMEurope2024」でも出展した展示品です。
一般的な2レベル方式を有するインバータが+Vdcと-Vdcの2レベルの出力電圧を持つことに対し、3レベルでは+Vdc、0、-Vdcの3つのレベルを持ちます。
3レベルでは2レベルに比べて使用するスイッチング素子の数が増える分、各スイッチング素子にかかる電圧が低くなります。
すなわち、スイッチング素子の耐圧要件が緩和され、高電圧の処理が可能になります。
+48V、0V、-48Vの3レベルのため従来の2レベルで使用されている耐圧150~200Vの高コスト、高損失な素子ではなく、車載向けにも普及している耐圧80V のSi-MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)を利用できるようにすることでコストと損失を抑えつつ、96V系の高電圧を出力できるメリットがあります。
また、3レベル方式インバータでは2レベルに対しスイッチング素子の数が増えますが、Schweizer社のp² PACK技術を用いることで、サージ電圧の低減による高速スイッチングや高放熱効果により従来技術と比較して損失を劇的に低減することができ、また各スイッチング素子に大電流を流すことにより素子の並列数を減らすことが可能となります。
Si-MOSを用いたp² PACKは3レベルの96Vに引き上げることでフルハイブリッドに近い出力を得
ることができ、軽量、小型、低コストにより、従来の高電圧ハイブリッドインバータに変わる技術としても注目されています。
今後、インバータに要求される性能はますます複雑になります。
NAGASEと共に将来のインバータ開発に向けた取り組みを検討しませんか。
なお、来年1月に東京・晴海の国際展示場ビッグサイトで開催される「ネプコン ジャパン2025」のセミナーにおいて、Schweizer 社のCTOであるThomas Gottwald氏が同社の部品内蔵開発の技術動向について講演します。
本技術にご興味のある方はぜひご聴講ください(要事前登録・参加費無料)。
Schweizer社 Thomas Gottwald氏 講演
日時:2025 年1 月24 日(金)10:00~11:30
場所:東京・晴海 国際展示場ビッグサイト「 ネプコン ジャパン2025」
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