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LiBの熱暴走からクルマを守る3 つの方法とは?

電気自動車(BEV)に搭載されているリチウムイオンバッテリー(LiB)の「安全性向上」は、最も主要な開発テーマの一つとなっています。LiBの熱暴走による発火を防ぐため、あるいは延焼を抑えるために、NAGASE が中国の浙江葆润社(バオルン社)と取り組む安全性確保の対策についてご紹介いたします。

イシュー

リチウムイオンバッテリーの「熱暴走」をいかに防ぐか


BEV の普及に伴い、LiB の性能向上に向けた開発が世界的に進められています。特 に一度の充電でどれくらいの航続距離を出せるかという「バッテリー容量の向上」、またそれとともに「安全性の向上」が重要な課題です。

LiB を構成する主要材料の一つである電解質には、液系の可燃性物質が使用される ことが多く、LiBへの外部衝撃などの要因により短絡(ショート)が発生することでLiBの内部へ瞬間的に大きな電流が流れ、同時に多量の熱が発生します。

この「熱暴走」がBEV の発火につながります。実際に世界を見渡すとLiB の熱暴走によるBEV の火災事故のニュースを目にすることもあります。

このような背景から、LiB の熱暴走をいかにして防ぐかという点は、BEV を設計する上で最も重要な要素の一つとなります。

熱暴走を防ぐ3つのアプローチ

LiB の熱暴走を防ぐためのアプローチにはいくつか種類があります。

例として、バッテリーマネジメントシステムの稼働により、過充電や過放電を防ぐバッテリーの温度管理が挙げられます。他にも、バッテリー内部で発生した熱をバッテリー外部へ放熱させることで、熱エネルギーを管理するという構造設計による対策も有効です。

こ のような複合的な対策により、BEV の火災事故を発生させないために高度な設計が成 されています。

それでも強い外部衝撃などの影響でバッテリーの熱暴走が発生してしまった際、いかにして発火を遅らせたり、火の勢いを弱めたり、延焼を防止したりするかという観点は万が一の場合への備えとして肝要です。

中国の規格GB 38031 - 2020 では、主に電池システムの各種安全性(熱、機械、電気 及び機能)を規定しており、バッテリーの熱暴走が発生した場合に乗員が脱出する時間を確保するため、バッテリーマネジメントシステムが警告を発してから5 分以内にはバッテリーが発火しないことが要求されています。

取り組み内容

賦形可能な防火断熱シートを用いた熱暴走対策 


このような熱暴走が発生した事態に対応するべく、NAGASE ではBEV の安全性向上の取組みとして浙江葆润社(バオルン社)社とのコラボレーションを加速しています。

同社の製品の特徴としては、BEV の安全性を高める多角的かつ高性能な製品ラインナップが挙げられます。今回はその中でも3 種類の製品をご紹介いたします。



高い耐火性能を持つ「防火断熱シート(商品名:MK シート)」は、シリコンとガラス繊維から構成され、バッテリーモジュールやバッテリーセル全体を覆う形で使用することを想定して開発されています。

シリコンベースの柔らかい素材で出来ているMKシート



シリコンベースの柔らかい素材でできているため、対象物に対して効率的に賦形させることが可能な素材です。また、GB38031の認証や、シートを火で炙る試験(1,500℃・30 分・1 ㎜)もクリアし、既に中国では実車に搭載された実績がある製品です。

バッテリーセル間の連鎖的熱暴走を防ぐ断熱材


二つ目はバッテリーのセルとセルの間に挟み込む「セル間断熱材(商品名:SUP HIP)」です。

特定のバッテリーセルで熱暴走が発生した場合、そのセルを起点として次々と隣接するセルに熱が伝わり、連鎖的にバッテリーパック全体で熱暴走が発生する状況が考えられます。

そのような状況を防ぐために開発されたセル間断熱材は、紙を生産する際などに用いられる抄紙技術を活用し、無機ナノ繊維を加工して生産する「ナノ複合断熱材料」です。

セル間断熱材



特に高温域での熱伝導率の低さが強みで、1 , 000℃の火炎を10 分以上耐えうるという試験結果も得られています。

セル間に設置されたSUP HIP

結露による短絡からバッテリー内部を守る調湿材


三つ目は、特定の空間の湿度を調節する「調湿材(商品名:HCCF)」です。

バッテリーパック内部に設置することにより、バッテリーパック内部の急激な湿度変化に起因する結露の発生を抑止し、結露に由来する短絡(ショート)を未然に防ぐことができます。

本製品はポリエステルファイバーに高分子吸水ポリマーを含浸させて作られ、含浸させた成分の特徴により半永久的に使用することが可能です。

また、湿潤環境では吸水率50% ~70%というラインナップの中で、自重の約2 倍の重量の水分を短時間で吸収することができます。

吸水された水分は湿度が低くなった際には空気中に放出され、調湿材の吸湿能力が復活するため、繰り返し吸湿機能を発揮します。

HCCFによる調湿のイメージ



もともと車載カメラの防曇用途では多くの実績がありましたが、最近ではバッテリーパック向けにも実績が出始め、結露防止の観点からLiBの安全性向上に貢献します。

HCCFの有無による湿度変化の様子



これらの多種多様な観点から、NAGASE はバオルン社と共にLiB の熱暴走対策を講じ、LiBの普及と発展に向けたご提案を続けていきます。

LiBの安全性向上に関してお困りの際は、ぜひNAGASEにお問い合わせください。