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EVバッテリーの高容量化の未来を担うシリコン負極材をご紹介します!

電気自動車(BEV)の世界販売台数は年々増加する傾向にあり、ここ数年で全世界の新車販売台数の約20 % を占めるところまで急拡大しています。各国の政策、コスト、資源確保等、多くの要素に左右される可能性はありますが、今後も市場の拡大が期待されています。そのようなBEV の永遠の課題の1 つが満充電時の航続距離です。今回はこのような課題の解決策の1 つとして、NAGASE が韓国のDaejoo 社とパートナーシップを組んで取り組むバッテリーのシリコン負極材についてフォーカスします。

イシュー

リチウムイオンバッテリーの研究開発が進む

BEV の航続距離を決定づけるリチウムイオンバッテリー(LiB)の研究開発はますます進み、ガソリンで走るICE(内燃機関)車と比べても遜色ない距離を走るBEV も出てきています。

一方、重量エネルギー密度でLiB とガソリンを比べた際、LiB で250 Wh/kg、熱効率を考慮したガソリンで3000~4000 Wh/kg と、そのエネルギー効率には10 倍以上の大きな差があり、BEV でICE 車と同等の性能を出そうとすると、どうしても大量の電池を積む必要があり、これが車体重量、コスト上昇の主な原因となっています。

LiBの高容量化のカギを握るSi系負極材

ガソリンと同等のエネルギー効率を達成するのは非現実的だとしても、電池としてのエネルギー密度の向上は常に技術開発トレンドの一翼を担っています。正極ではハイニッケル系の三元系正極材、そして、負極においてはなんといってもシリコン(Si)系材料の採用が世界中で進んでいます。

一般的に、LiB の正極と負極の役割として、負極は充電時にLi イオンを蓄え、放電時にLi イオンを正極に向けて放出します。従って負極に用いられる材料としては、より多くのLi イオンを蓄えることができればLiB の高容量化が可能となり、これがEV の航続距離の延長に寄与します。

また、LiB を設計する際には、負極がLi イオンを蓄える際の膨張率も考慮する必要 があります。膨張率の大きな負極を用いて充放電を行なうことで、膨張と収縮の繰り返しによる負極材の崩壊や剥離が発生し、これがバッテリーの容量低下を引き起こすためです。

現在、LiB の負極に使われる主な材料は黒鉛です。この黒鉛は単位重量当たりに蓄 えることができる容量は約360mAh/g、膨張率は約130%です。

一方でSiは容量が約4200 mAh/gと黒鉛の10 倍以上となりますが、膨張率は300%です。そのため、Si単体では使用せずに酸化物にしたSiOxタイプや、多孔性カ ーボンと組み合わせたSiC タイプがあり、膨張/収縮の程度を軽減させ、使用するというのが一般的です。容量はSiOx タイプで約1400 mAh/g 以上と、Si 単体よりも落ちますが、それでも黒鉛の4 倍以上の容量を持ち、ロングサイクルの使用に耐えることができる材料です。実使用時はSi 系材料を黒鉛材料に添加することで、容量の向上を図ります。

取り組み内容

ユニークなSi系負極材メーカーDaejoo社

NAGASE グループはこの負極向けに、韓国のシリコン負極材メーカー、Daejoo Electronic Materials Co., Ltd.(以下 Daejoo 社)をパートナーとして、シリコン材料普及に向けた拡販活動を行なっています。

Daejoo 社の製品の特徴 としては、ユニークな金属ドープのSiOx タイプで、高容量と初期効率の高さを達成させながら量産性に優 れるという点が挙げられま す。

また、粒子内にナノオーダーのSi 結晶子を均一に分散させる技術に優れ、ナノオーダーのSi 粒子のサイズ、Si 結晶子同士の距離を様々にコントロールすることにより、高容量で高い初期効率、優れたサイクル性を併せ持つ新しい世代の製品を次々と開発しています。

SiOxマトリックス中にSiナノ粒子が三次元的に均一に分散した構造

高性能な負極材を生産する上では、粒子の合成工程が肝になりますが、この工程が 非常にユニークであり、量産性とコストにおける競争優位性を出す根源となっています。実際、欧州市場において世界で初めて欧州のBEV向けSi系材料として量産採用され、その後もBEV向けの量産実績を積み重ねています。

既にGen. 3 までの量産が可能な状況で、生産能力としては2024 年で6000 トン以上、翌2025 年で1 万トン以上、2030 年には10 万トン以上の規模のキャパシティの確保を計画し、十分な生産応力を確保し、安定的に供給ができる体制を整えています。また、最先端材料については、今後Gen. 4 以降のサンプリング、量産に向けた工程のつくり込みを行なっています。

NAGASEが拡げるSi系負極実用化のためのネットワーク

NAGASE グループとしては、Daejoo 社の特徴ある製品の普及に日本、インド、欧州市場で注力しており、各国のLiB メーカー様においてサンプルの評価が進んでいます。また、NAGASE としては製品単体でのご提案のみではなく、Daejoo 社の製品を使いこなすためのバインダーの提案も合わせて行なっています。 

通常、負極には活物質とその他の導電助剤や集電箔を結着させるためにスチレンブ タジエンラバーとカルボキシメチルセルロースの組合せからなるバインダーを用います。

しかし、Si は充放電時の膨張率が黒鉛に比べて大きいため、活物質の剥離を起こ す可能性が高くなります。そこでNAGASEではSi系負極と共に特殊なバインダーも併せてご紹介し、これによりSi を用いた負極のサイクル向上につなげる取り組みを行なっています。

また、黒鉛材料とSi 系材料のブレンドさ れた製品の開発も視野に入れ、黒鉛メーカー様とDaejoo社でのコラボレーションを図っています。

Gyeonggi - do のSiheung - si にあるDaejoo 第2工場

NAGASE グループは、Daejoo 社とのパ ートナーシップを通じ、Si 系負極材により世界の電動化需要を支える取り組みを今後も益々促進していきます。