EV(電気自動車)バッテリーで今押さえるべき本質とは。資源の偏在性や経済政策などの影響を大きく受けながらも進化を続けるEV 用のバッテリーは、EV の航続距離の大部分を決定づける「バッテリー容量」や発火などの重大事故を起こさないための「安全性」、「資源の確保」など、多岐にわたる視点から研究開発が進められています。今回は日産自動車でEV エネルギー開発部長として初代リーフのバッテリー開発に携わった経歴を持ち、現在は電動車両プラットフォームやパワートレインの設計開発、リチウムイオンバッテリーの研究開発を行なう企業、ブルースカイテクノロジーの陣頭指揮を執る矢島和男社長に話を伺います。
例えばリチウムイオンバッテリーに使われている正極材の材料としては、三元系と呼ばれるNMC(ニッケル・マンガン・コバルト)が多く用いられます。これはエネルギー密度が大きいことがもっとも大きな理由の一つです。
一方、LFP(リン酸鉄リチウムイオン)は安全性や寿命、コストの観点では強みを持つものの、エネルギー密度の観点ではNMCには及ばない性能になっています。
正極材と組み合わせる負極材もバッテリー容量を決定する大きな要因の一つです。現在は黒鉛が主流ですが、他にも高容量化のための負極材が存在します。
中でも黒鉛と比較して10 倍以上の容量を実現できる可能性があるシリコンは、次世代バッテリーに用いられる負極材として注目されています。
ただし、シリコン負極材を使用することで黒鉛のみから成る負極と比べて負極の体積が膨張するため、これはバッテリーの劣化に繋がります。従って黒鉛の負極に一部シリコンを添加する方法があります。「これはけっこう理にかなっているでしょう」と矢島氏は話します。
材料のみならず、バッテリーセルをどう配置するかもバッテリー容量に関連する大事な要素です。
Cell-to-Pack 方式の一つであるブレードバッテリー方式では、空間に隙間がないほどブレード上のバッテリーセルを並べることから、空間を活かした安全性の確保が困難とされています。これをLFPの強みである材料由来の安全性の高さでカバーします。
Cell-to-Pack 以外にも多くのタイプのバッテリー構造があり、これは各社が開発するバッテリーの設計思想やユースケースによってどの材料、どの構造を採用したら良いかが決定するため、「決まった正解があるわけではないというのがバッテリー業界の現状」と矢島氏は語ります。
EV であってはならないバッテリーを起因とした発火事故を起こさないために、各社が心血を注いで安全性を確保しています。
国際基準・規格でも放熱、衝撃、衝突、延焼防止など様々な試験が要求され、基準・規格を満たすようにバッテリーを冷却、放熱するための構造や、衝撃が発生した際に吸収が可能な設計が成されています。
そもそも発火を起こさないように構造設計や材料の選定を行ないますが、それでも万が一バッテリーに不可抗力が加わり発火した際には、いかにして「燃え広がらないようにするか」という視点も大事であると矢島氏は指摘します。
例えば中国のGB 規格では、バッテリーの熱暴走が発生した場合にドライバーが脱出する時間を確保するため、バッテリーマネジメントシステムが警告を発してから5 分以内にはバッテリーが発火しないことが要求されています。
そのためにはバッテリー内部に酸素を供給しないような火の勢いを弱める構造設計や、バッテリーの周辺に火の勢いを弱めるための延焼防止材を用いるなどの工夫が必要であると言います。
EV 需要の増加に伴い、バッテリーの生産量を
高めようとする際に懸念されるのは、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、黒鉛といった資
源の確保です。
これらの資源は例えばコバルトの埋蔵量は約
50 % がコンゴであったり、精錬プロセスの多くは中国で行なわれていたりと、特定国に資源が偏
在しています。
日本のような輸入資源に依存する国では、いかにして獲得した資源を再利用するかが非常に大事であると矢島氏は唱えます。例えばコストの観点では、バッテリーコストに占めるウェイトの高い正極材をリサイクルする意義は大きいと言えるでしょう。
リサイクル以外にも資源を安定して確保するという観点では、国際情勢に関連する
リスクを最小化するために、特定の国から輸入するのではなく多様な国から資源を獲得する手段を持つことも有用になります。
「100 年に一度の変革期」と呼ばれる自動車業界で中枢に存在するEV。「バッテリーの設計」「安全性」「資源」など多くの側面から研究開発が進むEVの未来を、NAGASEはモノと技術で支えます。