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【対談記事】 Nippon Expressも導入─ ありそうでなかった「疲労」の見える化で安全管理は新時代へ。

物流業界では「2024年問題」に象徴されるように、ドライバー不足や長時間労働が大きな課題となっています。また製造業の現場においても、人手不足に伴う管理者の不在や、作業員の疲労の見過ごしによる労災といった問題が顕在化しています。安全性と持続性を両立したサプライチェーン構築の実現は、自動車業界にとっても避けて通れないテーマです。今回フォーカスする株式会社enstemは、AIとIoTを活用し、人のバイタルデータを可視化するソリューションを展開する注目企業。長瀬産業は2025年より同社への出資を決定し、事業拡大を支援しています。enstem山本寛大社長と、同じく出資先であり同社製品の導入企業でもあるNIPPON EXPRESSホールディングス株式会社のコーポレートベンチャリング部長・青浩司氏に、その背景と今後の展望を聞きました。

スポーツから物流へ── 野球経験が原点に

山本(enstem)  実は私の原点は野球なんです。

中学からシリコンバレーに渡り、1 6 歳の時には全米ジュニアオリンピック準優勝チームに所属していました。

チームには現在もメジャーで活躍している選手がいて、私自身もインディアンズやロイヤルズからスカウトを受けました。

野球を通じて、選手が日々のコンディション管理にいかに苦労しているかを実感した経験から、「テクノロジーでパフォーマンスを可視化できないか」という発想に至り、ウェアラブル端末を用いた取り組みを始めたのが起業の原点です。

株式会社enstem 代表取締役 山本 寛大 1991年、浅草生まれ、カリフォルニア育ち。早稲田大学人間科学部卒業後にGoogle に入社、事業開発を経験。2019年に物流・製造・建設などの現場課題に挑む株式会社enstem を創業し、代表取締役として「Nobi for Driver」「MAMORINU」を推進。ウェアラブル× SaaS で健康起因事故ゼロ社会の実現を目指す。


はじめはバイタルデータの母数を増やすため海外に目を向け、東南アジアで生体データを集めながらスポーツ選手向けのサービスを展開していました。

しかしコロナ禍で海外渡航が制限され、日本国内に目を向けた時に、物流の2024 年問題に直面していることを知りました。

そこで物流・製造現場にこそニーズがあると気づき、事業を現在展開している「Nobi for Driver」と「MAMORINU」という2 製品にシフトしていきました。

この頃に青さんとも出会いました。

NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社 コーポレートベンチャリング部長 青 浩司 立教大学大学院(MBA)修了。1993年に日本通運入社、航空貨物のオペレーション、営業、本社企画部門を経て、30 代で社内起業。復帰後、人財育成、営業戦略部門を担当し、2023年より現職。オープンイノベーションを信条にスタートアップとの共創に邁進中。


青(NIPPON EXPRESS) 当社はすでにドライブレコーダーを活用していましたが、眠気や疲労などドライバーの「調子」の部分は映像だけでは把握できていませんでした。

そんな中、ある事故を契機に、ドライバーの安全性向上を目的として「Nobi for Driver」の導入を検討しました。

心拍データというホワイトスペースを埋められる点が大きな決め手でした。

ドライバーの「見えない疲労」を可視化する


山本 
Nobi for Driverは、ドライバーが業務スマホとウェアラブル端末をBluetooth接続し、スマホのボタンを押すだけで心拍測定が始まります。

高齢の方でも直感的に使えるシンプルなUIにしています。

心拍数に異常が検知されれば管理者に通知が届き、その時点で管理者側からドライバーに休憩を促すといった運用が可能です。

青 現在は300台規模で導入していますが、今後は数万台規模に広げていく計画です。

ハインリッヒの法則にある「ヒヤリ・ハット」をデータとして蓄積し、重大事故を未然に防ぐ体制を整えたいと考えています。

「ありそうでなかった」ソリューション


山本 現場の方からよく言われるのが、「ありそうでなかった」という言葉です。

従来のバイタル管理機器は高額で、大手企業でなければ導入が難しいという側面がありました。

私たちは既存のウェアラブル端末に独自のソフトウェアを組み込み、リーズナブルな価格で提供しています。

だからこそ中小のバス会社様や地方の運送業者様をユーザーとして獲得することができ、徐々に大手企業へと広がっていきました。

 コスト面での導入ハードルが低かったのは事実です。

そして何よりも、ドライバーの「無自覚な疲労」を客観的に把握できるようになったことが大きい。

「元気です」と言うドライバーも、データを見ると確かに疲労の兆候が出ていることがあります。

映像による「推測」ではなく、「確証」を持ってドライバーに声をかけられる点が現場で支持されています。

もう一つ、重要な動きが「自動点呼」です。法改正により、これまで管理者が人手で行っていた点呼がI CTやAIを使った遠隔・自動点呼へとシフトしつつあります。

効率化の一方で、人と人との会話によって得られていた「調子の確認」という文化が失われる懸念もあります。

山本 そのギャップを埋めるのがバイタルデータです。

点呼が形式化されても、心拍データが裏付けとなり、管理者はより確信を持って「今日は休んだほうがいい」といった判断ができるようになります。

これもドライバーの安全性を担保する上で不可欠な要素になっていくと思います。

 ドライバーの業務においては、長距離運転による疲労だけでなく、荷積み・荷下ろしによる熱中症リスクも抱えています。

例えばトラックの荷台は外気温30℃でも、庫内は50℃近くに達することもあります。

荷下ろし作業で急激に体温が上がり、熱中症のリスクが増すのです。

過酷な現場を守る「MAMORINU」


山本 ドライバーだけでなく、倉庫や港湾、製造現場にも課題がありますよね。

青 そうですね。

例えば弊社が受託するメーカー様の工場内や港湾では、社員が業務を一人で行うケースが少なくありません。

もしその社員に異常があっても、周囲が気づくのは後になってしまう。

だからこそ「MAMORINU」で早期に異常を検知できる仕組みは大きな意義があると考えています。

山本 自動車製造の現場では、セキュリティ上の理由からカメラ付きスマホを持ち込めないケースが多いです。

これまで作業ログを手書きで残していた現場もありますが、カメラのないスマートウォッチ型デバイスであれば持ち込みが可能です。

バイタルデータを安全に収集できることにより、現場の効率と安心の両立が可能になります。

 取得したデータは端末側で学習されず、すべてenstem社のサーバーに集約されるという点も、秘匿性の高い製造現場では重宝されるかもしれませんね。

山本 今後は海外への挑戦も視野に入れています。日本で培ったノウハウを海外へ広げ、人と物流の安全を守る技術として展開していきたいと考えています。

青 物流は国境を越えてつながっているので、安全確保は世界共通の課題です。

これからも協働させてください。

NAGASE Mobilityの役割

NAGASE Mobilityは「安心・安全、快適を実現するソリューションをグローバルに提供する」という理念のもと、enstemとの協業を進めています。

資本提携にとどまらず、事業紹介の場を提供しながら、事業拡大を支援しています。

Nobi for DriverやMAMORINUにご興味のある方は、まずはNAGASE Mobilityにご相談ください。