公開日:2024/7/4

最終更新日:2024/7/4

教えて、百合子先生! 気候変動にサプライチェーン全体で取り組む必要性

気候変動対策は、「国際的な協力とサプライチェーン全体での取り組みが必要」と言われています。
『確かにそのとおり』と納得する人も多いと思いますが、この考え方は、始めから世界に根付いていたわけではありません。
今回は、気候変動に関する国際枠組みの経緯とともに、改めてサプライチェーン全体で取組む重要性について解説していきます。

国連気候変動枠組条約について

国連気候変動枠組条約は、1992年に採択され、1994年に発効した、皆さまお馴染みの気候変動に関する国際条約です。
本条約に基づき、1995年から毎年、気候変動枠組条約の締約国会議(COP:Conference of the Parties)が開催されています。

COP(コップ)と聞くと、気候変動の会合というイメージが強いですが、他の国際条約でも、締約国(加盟国)が様々な事項を決定・決議する会議が開催されており、すべて締約国会議、つまりCOPに当たります。
生物多様性条約や砂漠化対処条約でも、COPが開催されているのです。

話しを戻しますと、1997年に京都で開催された第3回締約国会議(COP3)は、「京都議定書」を取りまとめた気候変動の国際枠組みの歴史において最も有名な会議といえます。

なぜ京都議定書は先進国だけに削減義務を?

京都議定書は、先進国に対して、基準年から約束期間の排出量を削減するという国際的合意でした。
京都議定書の第一約束期間の時、『先進国だけ削減義務を負うのは不公平だ』という声がよく聞かれたと思います。

なぜ、先進国だけ削減なのか?背景として、この気候変動枠組条約には、「共通だが差異ある責任」(Common but Differentiated Responsibility)という概念があります。
地球温暖化に影響を与えたと考えられる化石燃料(石炭・石油・天然ガス)の使用は、産業革命で石炭を使い始め、世界大戦以降に石油を使用してきた歴史から、先進国と途上国では、これまで使用、燃焼してきた化石燃料の量に違いがあります。
故に、気候変動対策に対しては、先進国と途上国で、共通だが責任に差があるということを大前提として、この条約はスタートしました。
そして、この条約の概念の下、先進国にのみ削減義務を課した京都議定書が合意されたわけです。

パリ協定が変えた排出と削減に対する考え方

その後、2015年のCOP21において、「パリ協定」が採択され、2016年に発効されました。
京都議定書を後継する国際枠組みですが、途上国を含むすべての国が合意する協定となり、気候変動の国際枠組みにおいて、大きな前進となりました。

ここから、京都議定書時代とは異なる世界の構図となってきます。
すべての国が削減目標を掲げ、削減対策を講じるようになると、今まで削減量をクレジットとして売っていた国も、クレジットを買いたい国になります。
また、自国での製造活動がすべて排出量としてカウントされるので、排出量が多く出る製造時や生産時、資源採掘などを他の国で行い、最終製品として使用時のみ自国の排出として計上することも考えられます。

なぜ、サプライチェーン全体の議論になるのか?

気候変動の枠組みにおいては、その国の国土内・領土内での活動が排出量として計上されます。
しかし、私たちの社会をみてみると、あらゆる物は、どこかの国で原料の採掘が行われ、どこかの工場で製造、生産が行われ、また第3国で使用され、最終的に廃棄に至る、といったように、すべてのプロセスがグローバルに流通、取引がなされています。

このような現状を鑑みると、国というバウンダリー(範囲)での算定や削減といった議論ではなく、サプライチェーン全体で排出量を算定し、削減を講じる必要性が出てきます。
パリ協定やCOP決定にも、民間の企業や地方自治体、NGOといった様々なステークホルダー(all non-Party stakeholders)の役割が重要であることが言及されています。
国の排出削減対策のみならず、企業によるグローバルチェーン全体の排出量の把握や、国をまたいでの削減の取り組みは、今後益々重要性が増すと考えられます。

素材のフローをつかむ必要性

世界各国はパリ協定の下で、自国の温室効果ガスの排出削減目標である NDC(Nationally Determined Contribution 「国が決定する貢献」)を提出しております。
しかし、 2022年に発表された IPCC第6次評価報告書では、世界各国が NDC の目標を達成したとしても、産業革命以降の気温上昇が1.5℃を超える可能性が高いことが示されました。
もはや、国の削減目標の達成のみでは、気温上昇を抑えることができないことを、科学的に示したこととなります。

このような状況から、世界のどの国で温室効果ガスが発生したかに関わらず、経済的なサプライチェーンに沿って排出量を算定するためには、素材や資源、エネルギーが、どのようなフローで世界全体をめぐっているかを把握しなければ、削減はおろか、現状の排出実態を知ることもできません。
今後は、自国のあるいは自社の数字を追うだけではなく、資源の採掘から生産、使用、処理、リサイクルといったすべての素材フローをつかみ、より最適な削減戦略を打ち立てる必要性が出てくるのです。

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profile

早渕 百合子

<所属>九州大学 芸術工学府 芸術工学専攻 環境設計部門
併)洋上風力教育研究センター 脱炭素エネルギーマネジメント研究部門 部門長
併)エネルギー研究教育機構
併)次世代燃料電池産学連携研究センター
<専門分野>温室効果ガス算定方法論、環境政策評価、環境教育

<紹介文>京都大学大学院エネルギー科学研究科修了。京都大学エネルギー理工学研究所、国立環境研究所勤務を経て、現職。 国連気候変動枠組条約及び京都議定書、パリ協定の下でのUNFCCC Expert Reviewer(排出量審査官)の資格をもつ。京都議定書の下での日本国の温室効果ガス排出・吸収量の算定、国連締約国会合(COP)での国際交渉経験をもつ。