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生物処理によるリン除去の原理と特徴
2025.05.15
リンは排水中に含まれる栄養塩類の一つであり、水域への過剰な流出は富栄養化を引き起こし、水質悪化の原因となります。そのため、多くの工場では排水中のリン濃度を厳密に管理する必要があります。今回は「生物処理によるリン除去(以下、生物脱リン)」をテーマに、排水設備管理者の方に向けて、原理から導入時の注意点までをわかりやすく解説します。
1.生物脱リンの原理
生物脱リンは、リンを取り込む特殊な微生物(PAO:リン蓄積菌)を利用して、排水中のリンを除去する技術です。PAOは、嫌気状態で有機物を取り込みながら体内のポリリン酸を分解し、リンを放出します。その後、好気状態に移ると、PAOは過剰にリンを取り込み、ポリリン酸として蓄積します。この「放出と過剰取り込み」のサイクルによって、最終的にリンを多く含む余剰汚泥として除去します。
このように、化学薬品に頼らず微生物の代謝を利用することで、効率的かつ環境にやさしいリン除去が可能になります。
2.技術的特徴 ~他のリン除去プロセスとの比較~
リン除去には、生物脱リンのほかに主に以下の技術があります:
凝集沈殿法
:凝集剤(PACや塩化第二鉄など)を用いてリンを化学的に沈殿させる方法。
吸着法
:ゼオライトなどの吸着材を用いてリンを除去する方法。
それぞれに特徴がありますが、他の除去プロセスと比較した生物脱リンの特徴は以下の通りです:

生物脱リンは、薬品コストの削減やスラッジ発生量の抑制に貢献できますが、運転管理が比較的難しいため、導入前には慎重な検討が必要です。
3.処理フロー
生物脱リンの処理フローの例は以下の通りです:

第1,2嫌気槽
:PAOが有機物を取り込んでポリリン酸を分解、リンを放出。
第1,2好気槽
:PAOがリンを過剰に取り込み、ポリリン酸として再蓄積。
沈殿槽
:活性汚泥を沈降させ、上澄水を放流。リンを含む余剰汚泥は引き抜き。
一連の処理では、嫌気状態と好気状態を交互に作り出すことが重要です。適切な反応時間や撹拌、DO(溶存酸素)管理が必要となります。
第2好気槽で硝化反応が起こっている場合、第2好気槽の処理液を第2嫌気槽へリターンさせ、脱窒処理を行うことができます。
4.運転管理上の注意点
生物脱リンは、微生物の性質をうまく利用する技術であるため、以下のような運転管理が重要となります:
嫌気状態の確保
:流入水に酸素が混入していると、嫌気状態が維持できず、PAOが機能しません。流入の攪拌や空気の巻き込みに注意が必要です。
炭素源の確保
:嫌気状態でPAOが有機物を吸収するため、適切なBOD濃度が必要です。炭素源が不足する場合は、酢酸などの外部炭素源の添加を検討します。
SRT(汚泥齢)の管理
:PAOが活性を保てるよう、汚泥の更新サイクルに配慮します。SRTが長すぎるとPAOの活性が低下する恐れがあります。
リン回収の確認
:排水中のリン濃度だけでなく、余剰汚泥中のリン含有量をモニタリングし、脱リン効果を把握することが推奨されます。
5.最後に
生物脱リンは、薬品コストを抑えながらリン除去を実現できる持続可能な技術です。しかし、微生物の制御が求められるため、安定した処理には高度な運転管理が必要です。
もし「化学薬品の使用量を減らしたい」「スラッジ量を削減したい」とお考えであれば、生物脱リンの導入は有力な選択肢の一つとなるでしょう。当社では、生物脱リン導入前の技術診断や、既存設備の改善提案も行っております。ご興味がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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