
電源装置やインバータの高効率化・高速スイッチング化が進む中で、配線が持つ寄生インダクタンスの影響が設計上の重要な課題となっています。 本記事では、課題に対する有効な手段の一つである積層バスバーの基礎や用途、低インダクタンス化の考え方と、それを実現するためのインサート成形技術について解説します。
積層バスバーとは、複数の導体板(主に銅)を絶縁材料を介して層状に重ね合わせ、一体化した電力配線部品です。
大電流・高電圧を扱う電力回路に用いられ、電源装置やインバータ、パワーエレクトロニクス機器などで広く使用されています。
積層バスバーの特長は、電流の往路と復路を近接して配置できる点にあります。この構造により配線ループ面積を小さくでき、寄生インダクタンスを低減できます。
単体バスバーは、積層バスバーに比べて構造がシンプルで加工工程を極力省略したい場合に好まれる配線方式ですが、電流の往路と復路を別々に配置するケースが多く、配線ループ面積が大きくなりやすいという課題があります。
その結果、寄生インダクタンスが増加し、高速スイッチング時には過電圧が発生することがあります。
電力配線にはケーブルが用いられる場合もありますが、パワーモジュール周辺の電力配線では、低インダクタンス化や大電流対応の観点から、一般的にバスバーが用いられます。
ケーブル配線は取り回しが容易である一方、電流の往路と復路が離れやすく、配線ループ面積が大きくなりがちです。
そのため寄生インダクタンスが増加し、高速スイッチング時には過電圧やノイズが発生しやすくなります。
一方、積層バスバーは導体板を重ねて配置することで、往路と復路を近接させることができ、配線ループ面積を抑え、インダクタンスを低減できます。
また、配線を一体化できるため、組立作業の簡略化や配線ミスの防止にもつながります。
積層バスバー、単体バスバー、ケーブルの違いを表にまとめると以下のようになります。
積層バスバーは、導体材料と絶縁材料を組み合わせて構成されており、電気的性能だけでなく、耐熱性や信頼性を考慮した材料選定が重要です。
積層バスバーの構成は大きく導体材料と絶縁材料に分かれます。
積層バスバーの導体材料には、主に銅が使用されます。
銅は導電率が高く、低抵抗で大電流に対応できるため、インバータや電源装置など多くの用途で採用されています。
導体の厚みや形状が通電容量やインダクタンスに影響するため、回路条件に応じた設計が必要です。
導体間の絶縁には、フィルムや樹脂などの絶縁材料が用いられます。
絶縁材料には、耐電圧性能に加え、耐熱性や機械的強度が求められます。
層間距離を最小限に抑えながら確実な絶縁を確保することが、低インダクタンス化の重要なポイントです。
また、絶縁材料の選定や成形方法は、積層バスバーの信頼性や量産性にも大きく影響します。
積層バスバーは、電気的性能の向上だけでなく、装置設計や製造面においても多くのメリットがあります。
主なメリットとして以下の4つがあります。
積層バスバーは、電流の往路と復路を近接して配置できるため、配線ループ面積を小さく抑えることができます。
これにより寄生インダクタンスおよびインピーダンスが低減され、スイッチング時の過電圧やノイズを抑制できます。
高速スイッチング回路において、安定した動作と高効率化に寄与する点が大きな特長です。
平板状の導体を用いる積層バスバーは、断面積を確保しやすく、大電流に対応できます。
また、層間を確実に絶縁する構造により、高電圧回路でも安全に使用可能です。
発熱を抑えやすい点も、電力密度の高い装置に適しています。
積層バスバーは、複数の配線を一体化した構造のため、従来のケーブル配線に比べて組立作業を大幅に簡略化できます。
配線本数が減ることで、作業手順が明確になり、作業時間の短縮や組立工数の削減につながります。
電気特性のばらつきが少なく、振動や熱の影響を受けにくい構造であることから、長期にわたって安定した性能を維持できます。
これにより、装置全体の信頼性や安全性の向上に貢献し、保守負担の軽減にもつながります。
これらのメリットから積層バスバーはパワーエレクトロニクス分野などさまざまな用途で利用されています。

積層バスバーは、大電流・高電圧を扱い、かつ高速スイッチングが求められる電力回路を中心に使用されています。
特に、インダクタンス低減による過電圧抑制や回路の安定化が必要な装置で有効です。
これらの機器は年々高性能化が求められており、積層バスバーの低インダクタンス化も性能を左右するひとつの要因になります。
電力回路において配線が持つインダクタンスは、回路動作や装置性能に大きな影響を与えます。特にパワー半導体を用いた高速スイッチング回路では、わずかなインダクタンスでも無視できない問題を引き起こします。
積層バスバーのインダクタンスは以下のような影響を及ぼします。
スイッチング動作時には急激な電流変化(di/dt)が発生しますが、配線インダクタンスが大きいと、L・di/dt に比例した過電圧が発生します。
この過電圧はパワー半導体素子に大きなストレスを与え、素子破壊や寿命低下の原因となります。
特に高速スイッチング化が進む近年では、配線インダクタンスの影響が顕著になります。
インダクタンスによる過電圧や電流波形の乱れは、スイッチング損失の増加を招きます。
損失が増えることで発熱が大きくなり、冷却負荷の増大や装置全体の効率低下につながります。
結果として、電力密度の向上や省エネルギー化の妨げとなります。
配線インダクタンスが大きい場合、電圧・電流の応答が遅れたり、リンギングが発生したりすることで、制御系が不安定になることがあります。
これにより、誤動作やノイズ問題が発生し、装置の信頼性低下を招く可能性があります。
安定した制御を実現するためにも、インダクタンスの低減は重要な設計要素です。
積層バスバーのインダクタンスは、その構造や導体配置によって大きく左右されます。
低インダクタンス化を実現するためには、以下のような設計ポイントがあります。

低インダクタンス化の最も基本的な方法は、電流の往路と復路をできるだけ近接させ、対向配置することです。
往路と復路を重ねることで磁界が互いに打ち消され、配線ループ面積が小さくなります。
これにより寄生インダクタンスを効果的に低減でき、高速スイッチング時の過電圧やノイズ抑制につながります。

導体層間の距離が大きいほど、配線ループ面積は増加し、インダクタンスも大きくなります。
そのため、絶縁性能を確保したうえで、層間距離を可能な限り小さくすることが重要です。
薄い絶縁材料を用いて導体を近接配置することで、低インダクタンス化と高電圧耐性を両立できます。
往路と復路の導体が重なり合う面積を大きくすることも、インダクタンス低減に有効です。
重なり面積が大きいほど磁束の結合が強まり、ループインダクタンスを抑えることができます。
導体形状や配置を最適化し、可能な限りオーバーラップを確保することが、積層バスバー設計の重要なポイントとなります。
最後に、積層バスバーの低インダクタンス化を実現したインサート成形技術をご紹介します。
従来は、バスバー間に流し込む樹脂の流動性などの制約から、導体間距離は約0.5mmが限界とされてきました。
これに対し、NAGASE Mobilityでは厚み0.1mmの樹脂製絶縁フィルムをバスバーと一体化して成形する工法を開発し、従来比約30%の低インダクタンス化に成功しました。

単にフィルムを挟み込むのではなく、あらかじめフィルム周囲を樹脂で囲う一次成形工程を加えることで、成形時のフィルムの位置ずれや破損を防止しています。
この絶縁フィルムとバスバーを一体成形することで、従来以上に導体間距離を縮めながらも、高い絶縁信頼性を維持した超低インダクタンス構造を実現しました。
さらに、この一体成形技術は低インダクタンス化だけでなく、放熱や冷却設計との親和性にも優れています。
今後、バスバーの薄型化や高電圧・大電流化が進む中で、冷却器との距離を最小化する設計や、耐熱性を考慮した構造への展開も期待されています。
積層バスバーの低インダクタンス化を図る一つの技術として、是非ご検討頂ければ幸いです。
積層バスバーのように、インダクタンス低減などの電気的課題を伴う部品や、複雑な形状を持つ部品では、設計・材料・加工方法を一体で検討することが重要です。
特に量産を前提とした部品開発では、性能だけでなく、製造性や品質の安定性まで考慮した設計が求められます。
NAGASE Mobilityでは、インダクタンスなどの特殊な要求特性を持つ部品や、複雑形状部品、複数工程が必要な部品について、量産を見据えた設計提案から伴走支援を行っています。
インサート成形技術そのものの提供にとどまらず、用途や要求特性に応じた最適な樹脂材料の選定、量産性を考慮した加工方法の検討、さらには安定供給を支えるサプライチェーンの構築まで含め、技術面から量産立ち上げまで一貫したソリューション提供が可能です。
図面や仕様をご提示いただければ、課題や用途に応じたご提案が可能です。
自動車部品向けインサート成形のご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。