製造され、使用され、廃棄された自動車はどこへ行くのか。数万点もの部品から組み立てられた自動車は廃棄後には解体され、リサイクルされます。カーボンニュートラルの実現を目指すこの世界でリサイクルを実施するプレイヤーは誰で、リサイクル率を上げるためにはどのような施策を進めれば良いのか。NAGASE が賛助会員になっている日本自動車リサイクル機構(JAERA)で専務理事を務める阿部知和氏にお話を伺いました。
2005 年1 月に「使用済自動車の再資源化等に関する法律(自動車リサイクル法)」が施行されて以降、使用済自動車の適正な処理が推進され、現在では年間で270 万台程度の自動車が国内で解体処理、リサイクルされ、また中古車として約160 万台が海外へ輸出されています。
自動車のリサイクルは多くの関係者が関与することで成立します。
自動車を使用していた「ユーザー」が販売店や整備店といった「引取業者」に廃車を引き渡すことからはじまり、カーエアコンなどに使用されるフロンなどの冷媒を適切に処理する「フロン類回収業者」、自動車を部品単位へと解体する「解体業者」、部品をさらに小さく材料単位へ破砕する「破砕業者」、これらの材料を再利用できる状態へと加工する「再生材メーカー」、そして再生材を再び自動車部品として使用する「自動車メーカー」や「自動車部品メーカー」といった製造業者のように、大小様々なプレイヤーが存在しています。
このような各プレイヤーの取り組みにより、不法投棄・不適正保管されていた廃車の数は、自動車リサイクル法施行前2004 年9 月末時点の22 万台近い数と比較すると、2019 年3 月末には5千台未満まで減少しています。
※ 経済産業省、環境省出展データを基にJAERAが作成した資料より引用
廃車のリサイクル率が高まる一方で、2 つの大きな課題も発生しています。
一つ目は廃車部品の海外流出です。廃車から得られた部品の一部は主に海外でのリユースを目的としてドバイ等を経由し中東諸国、ケニアやタンザニアといったアフリカ諸国、他にも南米や東南アジアへ輸出されるケースが多いとのことです。
また、使用済み車両自動車が中古車として海外へ輸出され、現地で解体されリユース部品として流通するケースもあるとのことです。
世界的な視点で見ればリサイクルが実施されているため一見良い事例のようですが、銅などの日本の自動車用資源が海外に流出しているという捉え方もでき、資源の乏しい日本において、このまま海外流出が進むことは資源確保の観点から望ましくないことだろうと阿部氏は語ります。
二つ目はASR(Automobile Shredder Residue)です。鉄やアルミニウム、ハーネス類や、基板といった廃車リサイクルの工程で回収される品目の他に、破砕した廃車部品の中から有用な金属を取り除いた残留物としてASR が存在します。ASR の主たる成分はプラスチックですが、ウレタン、繊維類など複数の材料で構成されているため、細かく分別することが難しく、多くはサーマルリサイクルされています。
ASR のマテリアルリサイクル率を向上させることにより、GHG 排出量削減が見込めることから、経済産業省、環境省としてもASR のマテリアルリサイクルを推進したい意向があるだろうと阿部氏は話します。
海外に目を向けても、欧州ではELV(廃車)規則の中で2030 年頃には新車に使用されるプラスチックの25%以上を再生リサイクルする事を定め、そのうち25%は使用済み車両からのプラスチックとすることを求めています。
世界的にもASRのマテリアルリサイクルの潮流は強くなることが見込まれています。
経済産業省、環境省では特にASR処理の課題解決に向け、2026 年4 月を開始予定月として、ASR としてこれまで処理されているプラスチック等をマテリアルリサイクルする業者に対して、ASR処理料金を原資とするインセンティブを付与する「資源回収インセンティブ制度」の策定を進めています。
2024 年3 月時点で「使用済自動車に係る資源回収インセンティブガイドライン」の最終報告が発表されており、日本自動車工業会が解体業者や破砕業者に対して説明会も開催しています。
多くの解体業者や破砕業者が参加することにより、再生材の安定した回収に繋がることが期待されていますが、本制度を単体の企業として有効活用できるのは、廃車を回収し解体し、再生材メーカーへ破砕したプラスチック品の販売まで単独で手掛けることのできる大規模事業者に限られるだろうと阿部氏は話します。
これらの大規模事業者が解体を手掛ける廃車の数は全国の廃車のうち2 割にとどまり、残りの8割の廃車を処理する中小規模の解体・破砕業者は、廃車を安定的に回収し、解体・破砕品を安定的に販売する再生材メーカーを見つけ、輸送し納入する一連の流れをビジネスとして成立させることに課題を抱えていると言います。
しかし、そのような中小規模の解体・破砕業者の参加こそが本制度成功の鍵であり、本制度を有効活用できる仕組みづくりが急務であると阿部氏は指摘します。
ただし、いくつかの課題も存在します。
そのうちの一つは、解体・破砕品を再生材メーカーに輸送する際などに発生する輸送コストが挙げられます。従来は廃棄物として処理されていたバンパーなどのプラスチック部品をリサイクルする際の輸送コストは、材料売価に対して大きく(阿部氏いわく「空気を運ぶようなもの」)、事業性を高めることの弊害となるケースが少なくありません。
そのため、とりわけ輸送コストを抑えることは肝要であり、輸送コスト抑制のために地産地消の考え方をベースとした各エリア、各プレイヤー間での効率的な輸送ルートの構築が欠かせません。
JAERA では輸送ルートの効率化や、そもそも解体・破砕業者が販売先を見つけることが難しいといった中小規模の解体・破砕業者が抱える課題に対してサポートすべく、コンソーシアムの構築を支援しています。
各エリアに存在するプレイヤーの情報を集め、繋げ、プレイヤー間のリサイクル事業の事業性を高める施策を実施しています。
本コンソーシアムでは、リサイクル事業に関わるプレイヤーの組み合わせや、エリアに応じた工程のシミュレーションや小規模トライ、管理コストの試算をJAERA がサポートしており、資源回収インセンティブ制度が効果を発揮することが見込まれます。
新しいメーカーの参戦や、開発資金に余裕ができた再生材メーカーによる技術革新といったポジティブな循環が芽生えることを阿部氏は期待していると言います。
「今後はカーメーカーが主体となり、リサイクルしやすくするために易解体性を考慮した設計やリサイクル品の使いこなし技術も発展していくことが予想されています。
しかし現状ではリサイクル事業を『はい、やって』と言われて実施できるのは大手の約2 割の事業者であり、『資源回収インセンティブ制度』成功は残りの約8 割の事業者が鍵を握ります。
その半分でも参加してくれるような『手を出しやすい仕組み』と、他社とどのように組むべきかを示す『手引書』の作成をもって、彼らのサポートをするのがJAERA の使命です。
そのひとつの区切りが、資源回収インセンティブ制度がはじまる2026年4月となります」(阿部氏)。
JAERA の賛助会員であるNAGASE としても、自動車サプライチェーンの中で様々な材料に触れてきた知見を活かし、材料メーカーやリサイクルに関連する各プレイヤーとの結びつきをこれまで以上に確固たるものとし、カーボンニュートラルや資源循環の実現に向けた施策の情報を広く発信していく予定です。
NAGASE のカーボンニュートラル実現に向けた各施策にご興味をお持ちの方は、どのようなことでもご相談ください。