ウレタンスパンデックスとは

目次

ウレタンスパンデックスの概要

ウレタンスパンデックスの概要

ウレタンスパンデックスは「Expand(伸びる)」を語源としたポリウレタン弾性繊維である。ゴムのような伸縮性を持ち、伸縮性に非常に優れているため下着類、水着をはじめとするスポーツウェア、ニット、ストッキング、紙おむつのギャザー部、包帯、自動車用シートなどに展開されている。spandex(スパンデックス)、lycra(ライクラ)、polyurethane(ポリウレタン)、elasten(エラスタン)という名称で呼ばれることがあるがどれも同一ものを示している。米国を中心にスパンデックスと呼ばれることが多く、主にヨーロッパ圏ではエラスタン(EA)という名称が使われる。ライクラ®(LY)はアメリカの化学メーカー・デュポン社が商標登録している。多くのスパンデックスが服飾用繊維に使われるが、その際JISではポリウレタン(PU)と表記される。

ウレタンスパンデックスの定義

ウレタンスパンデックスは85wt%以上のポリウレタンセグメントを有する長鎖高分子から製造されるポリウレタン弾性繊維である。主に、ポリオールとしてポリテトラメチレングリコール(PTMG)、イソシアネートとしてジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が使用される。

ウレタンスパンデックスの性質

ウレタンスパンデックスはゴムのように伸縮性のある素材で、元の長さの5〜7倍まで伸び、緩やかに縮む回復力がある。屈曲抵抗性が高く、均質で細い糸を製造することができる。比重が1〜1.3と繊維の中では最も比重が小さく、燃えにくくシワが寄りにくい。ゴムと比較したとき破断強度、伸長応力、染色力、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性に優れている。しかし、湿潤状態で放置すると色落ちや他の繊維に移染、色泣きがおきる。また塩素に触れると黄変や脆化がおきる。綿や毛などの天然繊維、ナイロンやポリエステルなどの合成繊維等、様々な繊維と組み合わせて使用する。混用率は5〜40%、ボリュームゾーンは5〜10%である。混用率が数%異なるだけで生地の収縮性は大きく変わるため、幅広く用いられる。

ウレタンスパンデックスの製造

ウレタンスパンデックスの原料

ウレタンスパンデックスは、ポリオールとイソシアネートを反応させたプレポリマーに添加剤を配合し製造する。添加剤には、鎖伸長剤、光安定剤、酸化防止剤がある。

 樹脂と添加剤の構成比は85〜90%:10〜15%で、ポリオールには主にポリテトラメチレングリコールPTMGが、イソシアネートにはジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が使用され、一般的に70:30の比率で使用される。

 ウレタンスパンデックスの原料として他に採用されているポリオール/イソシアネートの組み合わせとして、PTMGとMDIの他、PTMGとトルエンジイソシアネート(TDI)、ポリプロピレングリコール(PPG)とMDI、ポリエステルポリオール(PEP)とMDI、その他ポリオール(旭化成のPTXGなど)とMDI、といった処方も使用される。

  原料の調達先は、代表的ポリオールメーカーとしては、Hyosung TNC・LYCRA・旭化成・三菱ケミカルが挙げられる。またウレタンスパンデックス製造メーカーで旭化成やHyosung TNCはPTMGを内製している。イソシアネート製造メーカーは、万華化学集団・BASF・Covestro・Huntsman・Dowが挙げられる。

ウレタンスパンデックスの製造方法

ウレタンスパンデックスの製造方法には、乾式(Dry Spinning)タイプ、湿式(Wet Spinning)タイプ、溶融タイプがある。

 乾式タイプは、現在の市場で供給されている8割のスパンデックスがこの方法で製造されている。デュポン社(現ライクラ社)が開発した技術で、溶剤に溶かしたポリウレタン樹脂を熱雰囲気中でノズルから押し出し溶剤を蒸発させる製法である。

 湿式タイプは、バイエル社(現コベストロ社)が開発した技術で、乾式より先に実用化された。原液に浸したポリウレタン樹脂を濾過後、口金から押し出し水浴中に吐出し凝固させる。その後洗浄浴を経てフィラメントを洗浄し乾燥することで製造する。

 溶融タイプは、無溶媒で重合したポリウレタン樹脂を熱で溶かし口金から押し出して繊維状にし、冷却固化させ巻き取る製法である。ウレア結合を有するポリウレタン-ウレアタイプのポリマーは融点がウレタン・ウレアの熱分解温度より高いため溶融タイプで製造することができず、鎖延長剤にジオールを使用したタイプのポリマーに限られるため量的に少ない。このタイプのウレタンスパンデックスはハードセグメントの凝集力が弱く耐熱性や回復力が低いが低温でセットできる易セット性を利用した展開も進められている。

ウレタンスパンデックスの市場規模

ウレタンスパンデックス製品の非発泡ウレタンとしての市場規模概況

ウレタンスパンデックスは、非発泡ウレタンの近年の世界市場規模と今後の予想は以下の表にようになっている。

※当サイト推定

ウレタンスパンデックスの販売数量は増加傾向にあるが非発泡ウレタン市場と共に拡大している。2017年から2023年の非発泡ウレタン市場におけるスパンデックスの市場の割合は16.1%から17.1%と緩やかに成長している。この成長は新興国での経済成長や人口増加を要因とした各種衣料や紙おむつの需要拡大や、先進国での伸縮機能性を高めたスポーツ用品を中心とした市場拡大の影響を受けている。

 非発泡ウレタン市場での製品構成が最も多い塗料・インキは、新興国での経済成長に伴い、塗料部門ではアクリル塗料からウレタン塗料への代替、軟包装用印刷や建材などの用途でグラビアインキの需要増加より拡大が進む見通しである。シーリング材は新興国での需要増加はあるものの、先進国市場での拡大が見込まれないため世界市場規模では緩やかな拡大と見込まれている。熱可塑性ウレタンは工業、自動車、日用雑貨などさまざまな分野に浸透している材料であり、新興国での経済成長に伴い市場拡大が続くと予想されるものの、安価な別の材料との競合が絶えず発生しているため材料が切り替わることで需要減少の可能性もある。

ウレタンスパンデックスの市場規模

ウレタンスパンデックス業界のCAGR(’23年/’18年)は4.0%程度と推測される。

※当サイト推定

北米や欧州では、参入企業が集約されていたこともあり、高機能品向けで安定したスパンデックスの需要が見込まれている。また汎用品について中国や東南アジアから生産された比率が高いが、米中間の貿易摩擦を受ける影響は限定的である。

ウレタンスパンデックスの価格

ウレタンスパンデックスの原料となるPTMG、MDIにつき、2017年から2018年にかけて、特にMDI は供給不足により価格変動が大きかったものの、製品市場への転嫁は少なく、2019年になると価格変動が少なく安定している。為替や関税の影響はあまりみられない。汎用品について中国での大規模なスパンデックスメーカーの登場、市場参入企業の急増により低価格帯で供給されている。

 ウレタンスパンデックスのグレードはISO(国際標準化機構)で定められているテックス(1,000m当たりの長さに相当するグラム数、繊維の長さが1,000mで重さが1gのときtexとなる)で表記され、通常はテックスの10分の1であるデシテックス(dtex)で示される。

 ウレタンスパンデックスの価格は主原料であるPTMGとMDIの価格動向に影響を受ける。PTMGの価格は比較的安定しているが、MDIの価格が2019年Q1(第一四半期)に底をついてQ2(第二四半期)にかけ上昇しているため汎用スパンデックスの価格は底値から約4〜5%程度上昇している。一方で、最終製品のコストダウン圧力も働いているので、Q2(第二四半期)の時点からQ3(第三四半期)の見通しを立てると、どのグレードも横ばいあるいは下落と考えられている。日本、欧州、北米ではスパンデックスメーカーが集約が進んでいることから価格は比較的安定しているが、中国を含めた他地域では多数の企業が市場に参入しているため、供給過剰状態に陥り平均価格の下落が続いている。

ウレタンスパンデックス参入企業

ウレタンスパンデックスの主要参入企業は、Hyosung TNC・浙江華峰氨纶

(Zhejiang Huafon Spandex)・LYCRA(旧INVISTA)・旭化成・煙台泰和新材料

(Yantai Tayho Advanced Materials)・江蘇双良氨纶(Jiangsu Shuangliang Spandex Co., Ltd)が挙げられる。さらに以下の表に2018年末時点での、中国を含めた各国・地域にて多数の市場に参入している企業とその生産能力、ブランド、特徴を示す。

※当サイト推定

ウレタンスパンデックスメーカー別販売動向【世界】

ウレタンスパンデックスの世界市場におけるメーカー別販売動向を以下に示す。

※当サイト推定

 Hyosung TNCは2010年代前半よりシェアトップである。2020年頃までに生産能力を39万t/Y増強し事業拡大を進めている。従来ブランドのCreora®に、色合いの発現性に優れる「Creora Color+」や、生地が伸びたときに灰色みえる現象を抑え黒みの深度を高めた「Creora Black」、塩素への耐久性を上げた「Creroa highclo」、スポーツウェア、特にサイクリング、トライアスロン、水泳競技を含めたエクストリームスポーツ分野向けを意識した「Creora ActiFit」など付加価値品の展開品も行っている。ベトナム、インドと拠点を増強しながら建設を進め、インドでは60〜70%のシェアを獲得し今後の需要の取り込みを見込んでいる。インドでは現地資本スパンデックスメーカーIndorama Industriesの訴えを受け入れ2017年にアンチダンピング措置を発動しているが、品質の高いスパンデックスを輸入に頼る構造に変化がなく、Hyosung TNCや旭化成のシェアが高い。

浙江華峰氨纶はウレタンスパンデックスに従事する中国内初の上場企業であり、中国系最大のメーカーとなった。2018年に親会社の浙江華峰集団がBASF社と戦略的提携関係を強化した。またスパンデックス以外の各種ウレタン材料・製品事業における原料の融通や技術交流を促進している。2019年に経済産業省のグリーンファクトリーのリストに選出されるなど省エネと二酸化炭素排出規制に取り組んでいる。LYCRA(旧INVISTA)は2018年に中国山東如意集団に繊維部門を売却した。その中にはスパンデックス部門も含まれていた。これに伴い中国山東如意集団は「LYCRA社」を分社化し、既存の天然ウール製品や自社アパレルブランドと繊維事業を垂直統合し、規模拡大した。

2012年、中国は国内のスパンデックスメーカーの保護を目的とし、他国で生産された製品に対しアンチダンピング措置を開始したが2017年に解除された。

ウレタンスパンデックスメーカー別販売動向【日本】

ウレタンスパンデックスの日本市場におけるメーカー別販売動向を以下に示す。

※当サイト推定

日本では東レがLYCRA(旧INVISTA)と合弁事業として東レ・オペロンテックスを展開している。LYCRAライセンスの元、高次加工用に多様なニーズに応える「ライクラ®ファイバー」シリーズを展開している。同社ではポリエステル系繊維と複合繊維を開発し「T400 」のようなスポーツウェアやジーンズに採用されている。旭化成は「ロイカ」ブランドが高機能品として認知されている。自社技術による独自ポリエーテルグリコールPTXGを原料に使用している。PTXGは、テトラヒドロフラン(THF)とネオペンチルグリコール(NPG)の共重合品である。ロイカと自社製品を組み合わせることで2枚の生地が一つになった「ファイネックス」や、「伸張発熱、ストレッチエナジー」など各種機能糸とともに幅広い用途向けに展開している。アジアおよび欧州に地産地消ないし周辺国へ特殊品の輸出を行っている。

ウレタンスパンデックス用途別販売動向 【世界】

ウレタンスパンデックスの世界市場における用途別販売動向は下記の通りと推定される。

※当サイト推定

ウレタンスパンデックス 用途別販売動向【日本】

ウレタンスパンデックスの日本市場における用途別販売動向は下記の通りと推定される。

※当サイト推定

 ウレタンスパンデックスの市場では、経編、丸編、織物、ストッキング・靴下と衣料用用途に使用される割合が高く、伸縮性が重視され従来使用されているファンデーションや肌着インナーやコンプレッションウェア向け(主にスポーツウェア)だけでなく作業着・ワークウエアに用途を広げている。加工流通メーカーは、衣料ではInditex・H&M・Gap・Skins・ファーストリテイリング・デサント・ミズノ・ワコールが挙げられる。紙おむつ・衛生材ではP&G・Kinberly Clark・ユニチャーム・花王が挙げられる。

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