2024年の米国大統領選および議会選の結果は、国内産業にとどまらず、国際的にも大きな影響を与えると見られています。先週開催されたアドヒーシブ・シーラント協議会(ASC)のウェビナーでは、特に欧州の粘着テープ産業にとって示唆に富む内容が共有されました。
米国の接着剤市場と欧州企業への影響
米国の接着剤市場は約220億ドル規模、700超の製造拠点と28,500人以上の雇用を抱える世界的にも重要な市場です。欧州企業にとって、米国の規制・貿易・税制の変化は、供給網・競争環境・投資戦略に直接的な影響を及ぼします。
規制におけるチャンスとリスク
トランプ政権下で進んだ規制凍結と大胆な規制緩和政策は、欧州企業にとって以下のような影響があります。
■ チャンス:
- 規制負担の軽減により、米国市場への参入や現地パートナーとの事業展開が容易になる可能性
- 新たな規制制定の停止により、長期的な投資や製品投入の計画が立てやすい安定環境の実現
■ リスク:
- 米国の規制が欧州の厳格な枠組みと乖離し、グローバルなコンプライアンス戦略の調整が必要
- EPA(米国環境保護庁)の職員削減により、化学物質の審査・認可の遅延が懸念され、新製品投入や供給網に支障を来す可能性
貿易政策とその世界的影響
米国による関税措置(カナダ・メキシコからの輸入に25%、中国からの輸入に10%)は、世界のサプライチェーンに大きな影響を及ぼしています。欧州の接着剤企業にとって、以下の点で注意が必要です:
■ 調達とコスト構造:
原材料や部品の輸入コストが上昇し、価格競争力の低下やサプライチェーンの再構築が必要
■ 市場動向:
報復関税や貿易制限により、自動車・建設・電子機器などのエンドマーケットが不安定。現地生産への切り替えや代替調達先の模索が戦略上重要。
■ 大西洋をまたぐ協業の可能性:
米国政策の変化は、欧米企業の提携やジョイントベンチャーの促進を後押し。近距離生産(ニアショアリング)も選択肢として浮上。
また、中国によるレアアース輸出規制(例:リチウム)なども、原材料調達や技術革新に影響しうるため、継続的な注視が求められます。
税制改革の波及効果
米国では法人税率が35%から21%に引き下げられ、国内製造業の支援が図られています。
- 欧州企業にとっても、米国内での研究開発投資の増加や資本投資の強化など、間接的恩恵の可能性あり。
- 一方で、競争が激化し、投資戦略の見直しや国際的な協業の再構築が必要となる。
- この減税を恒久化するには米議会の超党派の合意が必要なため、不確実性も依然として存在。
環境政策の動向
米国の環境政策は、規制の簡素化と執行の優先順位の見直しへと舵を切っています。
■ 利点:
- 化学品規制の緩和によって、製品開発・投入のスピードが向上
- 欧米間での先端接着技術の共同開発・市場展開のチャンス増加
■ 懸念:
- 欧州は引き続き高い環境基準を維持しており、地域ごとの法規制の二重対応が必要
- 米国での規制当局の縮小により、州ごとに異なる政策が導入される可能性が高まり、グローバルな法令遵守が複雑化
また、米国証券取引委員会(SEC)の気候情報開示ルールの棚上げや電気自動車排出基準の撤廃など、持続可能性に逆行する動きが進んでおり、欧州企業にとっての戦略的判断が問われます。
今後に向けて:提言と国際的関与の重要性
欧州の接着剤企業が競争力を保つためには、両大陸の政策動向への継続的な関与と対応が鍵となります。
■ 推奨アクション:
- 大西洋をまたぐ対話:米国の業界団体(ASCやPTSC)との連携を深め、国際的に整合性のある政策作りを促進
- グローバルなコンプライアンス体制の構築:米欧間の法規制の違いを調整し、スムーズな国際展開を支援
- 技術革新とサステナビリティへの投資:政策の変化を機会と捉え、差別化された持続可能な製品を開発
結論:
米国の規制・貿易政策は、グローバルな接着剤業界にとって大きな影響を及ぼす「両刃の剣」です。欧州企業は、機会とリスクの両方を見極め、積極的に行動することで、持続的な競争優位を確立することが可能です。