EU、中国製EVに対する関税を最低価格制度に置き換える可能性

世界のEV市場を再編する貿易紛争

欧州連合(EU)と中国の間で高まる貿易摩擦により、世界の電気自動車(EV)市場は大きな変化を迎えています。対立の核心には、中国政府の補助金政策により中国製EVが欧州市場で不当に低価格で販売されているというEUの懸念があります。この争いはすでに両者の報復措置を招いており、EUはEV産業の競争環境を再構築する新たな解決策の模索に動いています。

2023年9月、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、中国のEV産業に対する過剰な補助金を公然と批判し、その不自然に低い価格が公正な競争を阻害していると主張しました。その結果、EUは2024年11月より中国製EVに対し、従来の10%の輸入関税に加えて17%から35.3%の相殺関税を課し始めました。

これに対して中国は、フランス産ブランデーなどに対して関税を引き上げ、貿易摩擦が激化しました。これにより、中国製EVは欧州市場でのシェアを失い、フランスの酒類輸出は中国で売上を落としています。

しかしEU内では、この強硬路線に対する意見の分裂も生じています。世界有数の自動車メーカーを抱えるドイツは、これらの関税に強く反対しています。ドイツ自動車工業会(VDA)は、中国による報復措置が、世界売上の30%以上を中国市場に依存するドイツの自動車メーカーに深刻な影響を与える可能性があると警告しています。このため、ドイツはさらなる貿易制限に対して強硬に反対しています。

妥協案としての最低価格制度

EUは、域内の対立を和らげ、長期的な経済的損失を回避するため、より柔軟な対応を検討しています。最近の報道によると、EU当局は中国製EVに対する懲罰的関税の代替として、「最低価格制度」を導入する案を作成中です。この制度では、中国メーカーは価格を自由に設定できるのですが、ある一定の最低価格を下回らないよう義務付けられるのです。企業はその最低価格以上の利益を保持できる一方、EUに追加支払いを行う必要はないとされています。その代わりとして、中国は欧州域内での投資拡大と技術移転に合意することが期待されています。

この方針転換は、過度な保護主義が逆効果になり得るというEU内の認識の広がりを反映しています。あるEUの通商当局者は「我々が必要としているのは、公正な競争であり、貿易障壁ではない」と語っていました。一方で中国側も緊張緩和に前向きな姿勢を示しており、中国商務部の王文濤部長とEUの通商担当副委員長マロシュ・シェフチョビッチ氏との間で複数回の交渉が行われ、実務的な解決に向けた機運が高まっています。

より広い文脈:米国の政策と国際的影響

米国の通商政策の変化も、状況をさらに複雑にしています。トランプ政権は最近、輸入車に対する関税を25%に引き上げました。この影響で、VolkswagenやAudiなど欧州自動車メーカーは米国向け輸出を一時停止しており、中国市場の重要性がさらに高まっています。これにより、EUも中国への対応においてよりバランスの取れたアプローチを求められています。

一方、Teslaは米国で製造されたModel SおよびModel Xの中国販売を停止しました。これらの車両は米国内のみで生産されており、現在Tesla中国の公式サイトでは注文ができません。これに対して、上海ギガファクトリーではModel 3およびModel Yが引き続き生産され、国内販売および欧州への輸出に充てられています。中国汽車流通協会によると、Teslaは2024年にModel Xを1,553台、Model Sを311台、中国に輸出しました。

EV産業にとっての分岐点

この貿易対立は、今後大きな影響をもたらす可能性があります。もし最低価格制度が導入されれば、中国製EVの価格優位性は低下しつつも、より予測可能な市場アクセスが確保されるだろうとみられています。また、サプライチェーンの地域化も進む可能性があります。BYDやGeelyといった中国メーカーは、欧州での生産拠点設立の可能性をすでに検討しており、これはEVのグローバルな供給体制の再編を加速させる動きです。

マクロ的に見れば、この対立は、世界のグリーン産業競争の新たな局面を象徴しています。各国が自国のEV産業を支援する中で、産業政策と公正貿易のバランスが課題となっています。進行中の中欧間の対話は、急速に進化するグリーン経済において、こうした貿易紛争の解決モデルとなる可能性があります。

業界アナリストは、今後6~12か月以内に暫定合意が成立すると予測しています。ただし、EVを巡る世界的な通商規制の将来は依然として不透明です。

産業が岐路に立つ中、各国政府、メーカー、消費者は変化する状況に適応する必要があります。中国とEUにとって、現在の交渉の結果は、短期的な貿易の流れだけでなく、グローバルなグリーン経済の枠組み形成にも影響を及ぼすことになるとも考えられます。

https://www.pudaily.com/Home/NewsDetails/55359

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