グラビアインキは、世界各国で広く使われるたいへん一般的なインキです。
グラビアインキ自体、そしてそれが使用された被印刷物もすぐれた品質を示すことが評価されており、きわめて重要なインキであると言えるでしょう。
本記事では、グラビアインキの特徴や用途ついて解説します。
グラビアインキの特徴
グラビアインキとは凹版印刷における一形態、「グラビア印刷」で用いられるインキです。
特にフィルムへの適合性や柔軟性が高いのが特徴として挙げられます。
またドクタースジやトラッピング不良、版詰まりなどの不具合を起こしづらく、きわめて安定したインキです。さらにはラミネート適合性も有しており、これはグラビアインキの有用性について高く評価される主要な要因です。
また保存性や再溶解性にも秀でており、版のリピート使用が現実的であるなど、運用は容易な部類に入ります。
その上、金属板を基材とすることが前提となるため、各種溶剤を自由度高く利用可能です。
ちなみにグラビアインキは、使用される樹脂によって異なる特徴を有します。
また、グラビアインキで印刷された基材については、基本的には以下のような特徴を有するようになります。
- 基本的に無臭である
- フィルムへの接着強度に優れ、経年劣化が起こらない
- 耐候性を有する
- 耐光性を有する
- 耐内容物性を有する
- 色彩や明暗、濃淡における精度の高さ
- 光沢
- 耐油性
- 耐水性
というように、きわめて良質な物性、特性をそなえた印刷物として仕上がる点が重宝され、グラビアインキもといグラビア印刷は、もっとも広く普及しています。
その用途先は幅広く、レトルト製品や食品用フィルム、建築資材や出版物などでは欠かせない印刷技術です。
グラビアインキそのもののバリエーションはもとより、用途先の多様性のほうが、むしろ特徴的であるとも言われます。
ただし、有機溶剤の排出削減を目指す風潮とは逆行している存在でもあり、水性型への移行が強く望まれています。
一方で水性型ではグラビアインキに要求される品質や性質を確保できないため、移行はさほど進行していません。
グラビアインキが使われるグラビア印刷の定義
グラビアインキが利用されるグラビア印刷は、凹版印刷の一種です。
微細な凹部が設けられた円柱状のシリンダーが版であり、そこにインキを転移します。
続いて、余分なインキについてはドクターブレードで除去される流れです。
そのあとで、基材へ転移され、所定の意匠について表現します。
グラビア印刷は、凹部の形状や深さを次第で、グラビアインキの転移量を自由度高く調整することが可能です。
よって、きわめて緻密な明暗や濃淡を調整でき、基本的には良質な画像が得られます。
またロングランや高速印刷に対しても適性を示し、きわめて有用な印刷として普及しています。
この場合は速乾性を有するグラビアインキが使われます。
一方でグラビアインキの価格によって、ややコストがかかる印刷方法である側面は否定できません。
グラビアインキの材料構成比
グラビアインキの材料構成比は以下に示すとおりです。
材料名 | 構成比 |
溶媒 | 40~60% |
添加剤 | 15~50% |
樹脂 | 15%~50% |
樹脂については、ポリウレタンをはじめ、
- ポリアミド
- 塩化ビニール
- 塩素化ポリプロピレン
- アクリル
などが利用されています。
溶媒についてはトルエンやアルコール、あるいはケトンなどが利用されています。
ただし臭気改善の問題から、最近ではトルエンが忌避される傾向です。
溶媒は、主に樹脂溶解および流動性の付与、顔料の分散を補助する目的で使用される傾向。
添加剤については、有機顔料か酸化チタン、あるいはカーボンブラックが用いられます。
有機顔料では、分極率にすぐれる 「アゾ基」に分類されるものが利用され、暖色系から黒色系のカラーリングを再現することが可能です。
また、染料タイプの添加剤は、グラビアインキでは利用されます。
グラビアインキに参入している主な企業
メーカー別販売動向
日本においては、東洋インキが3分の1以上をシェアとして獲得しています。
同時に東洋インキは新興国への積極展開により、東南アジア諸国でもトップシェアを確保するに至りました。
今後も南米や東欧への展開が予定されており、新しいシェアを獲得していく見込みです。
東洋インキに次いで、サカタインクスは第二位のシェアを獲得しました。
主にレトルト食品用のニーズを獲得しており、東洋インキとは異なる分野で躍進し続けています。
市場全体としては、日系か独系のメーカーが大きなシェアを有していると分析できます。
また、現在では中国系のメーカーが参入しており、今後は市場も多国籍化するでしょう。
ただし中国系メーカーは小型製品に特化しており、日系、独系のメーカーとは直接の競合関係とはならない見込みです。
日本におけるグラビアインキ材の市場規模推移
国内においては、2023年まで微増ではあるものの一貫した右肩上がりが予測されています。
背景には、単身世帯の増加に起因する個別パッケージング需要拡大などが挙げられており、今後もその傾向は継続する見込みです。
そうでなくとも日本における軟包材ニーズは強大であり、今後もグラビアインキは必要とされるでしょう。
ただし2021年の東京オリンピック終了後に予期される景気低迷や消費税増勢により、グラビアインキへの需要が低下すると予測されています。
つまり現時点では一時的にグラビアインキの需要が例外的に高まっているのであり、今後永続するものではありません。
海外におけるグラビアインキ材の市場規模推移
世界では、日本よりも勢いを持って市場拡大していくでしょう。
特に中国では軟包材としてのニーズが強く、安定した市場規模で推移しています。
生活水準が飛躍的に向上する中で、グラビアインキ材が注目される傾向が認められます。
ただし、この状態が永続するとは考えづらい部分も否めません。
メーカー同士での価格競争が激しく、市場は飽和へと向かっているのは明らかです。
また将来的には中国国内の人口も下降する見込みであり、そうなればグラビアインキの市場は縮小するのが自然な予測と言えるでしょう。
一部欧米や北欧でも、少しずつ市場は拡大しています。
これらの地域ではレキソ印刷が主流ですが、グラビア印刷もわずかずつ採用されやすくなっている傾向です。
したがって、今後はグラビアインキもより大きな需要を持つようになるでしょう。
国と地域ごとの構成比について
新興国における多大なニーズが反映されていると考えられます。
世界におけるグラビアインキ取引量のうち、およそ3分の1は中国国内で消費されたものでした。
続いて東南アジアなど、発展途上国が点在する地域においても、グラビアインキは特別必要とされていました。
また、日本は単独で北米と欧州それぞれのシェアを上回っています。
北米、欧州はフレキソ印刷が主流であり、グラビア印刷は全体需要の2割程度にとどまっています。
一方、両地域では、経済発展の影響でグラビア印刷への需要が高まっている側面も。
よって欧州、北米では市場が拡大傾向を辿り、構成比も大きくなる見込みです。
国と地域ごとの用途別販売動向
フィルム印刷には表面印刷と裏面印刷がありますが、日本におけるニーズの7割近くが後者によるものです。
インキの脱落や損傷をおさえつつ、レトルト製品などで広く利用されています。
また、ラミネートを組み合わせた形でも、幅広く採用されている様子です。
建材については、東京オリンピックによる特需の影響で構成比が高まっています。
一方で東京オリンピック終了後は、やはり用途としては減少傾向をたどると予測されています。
紙器については、食料品の容器などが該当し、需要としてはかなり堅調です。
その他では、カタログや雑誌などでも利用されていますが、オフセットインキの台頭もあって、需要自体は縮小しています。
海外では、日本以上に軟包材としての用途が主流です。
上述のとおり食品における包装では、デザイン性と速乾性が活かされ、幅広く利用されています。
建材については中国をはじめとした新興国での需要が強く、今後も成長する見込みです。
一方でその他に分類されるカタログや雑誌などの出版物に対する需要は低減されており、やはりオフセットインキに押されている部分は否めません。
まとめ
グラビアインキは、グラビア印刷において欠かすことのできないインキです。
樹脂などを使い分けることで、ラミネート適合性などをはじめとしたさまざまな性質が持たせられます。
グラビア印刷で需要家が求める特性を自在に提供でき、印刷業界では欠かせない存在です。
グラビアインキの世界市場は、今後も著しい拡大傾向を示し続けるでしょう。
特に新興国での需要拡大は顕著です。
日本でも強固な市場が存在します。
ただし日本の場合、東京オリンピック以降は需要が縮小される可能性について指摘されています。