MDI( ジフェニルメタンジイソシアネート)

MDIはイソシアネートの中で最も多く生産される原料です。2018年の生産量は700万Mt程度とイソシアネート全体の7割を占め、2位のTDI(200万Mt程度)に大きく差をつけています。用途先のほとんどが硬質ウレタンフォームであり、硬質フォームは住宅や冷蔵庫の断熱材として使われています。近年では作業環境における安全意識の高まりから、TDIに置き換わる形で軟質ウレタンフォーム向けにも使用され始めています。合成法や市場状況など、MDIの概要を見ていきましょう。

目次

主な用途先

MDIは用途の5~6割以上を硬質フォームが占めます。硬質フォーム向けはいずれも断熱を目的とした製品であり、建築物向けは現場で吹き付ける原液として提供されることが多いです。工場でポリオールと反応させ、断熱ボードとして提供されることもあります。機器類向けは冷蔵庫・冷凍庫向けを表しています。硬質フォーム(その他)は船舶や配管、特殊設備などいずれも断熱が主な用途です。軟質フォームはベッドや座席のクッションとして使われており、ポリオールとの反応にはTDIが採用されていますが、イソシアネート蒸気の曝露による作業員の安全性が懸念されています。環境・安全規制の厳しいEUの自動車産業を中心にMDIへ置き換える動きがみられることから、軟質フォーム向けのMDIの多くは車両向けと考えられます。その他用途はウレタンプラスチック、塗料などが含まれます。国別でみると中国における建築向けの比率が低いですが、これは防火規制が関連しており、硬質フォームより難燃性の優れる断熱材が好まれるためです。

合成法

図 MDI生産チャート(当サイト推定)

他の基礎化学品同様、MDIも石油由来の原料で製造されています。アニリンの前駆体となるニトロベンゼンもベンゼンと混酸の反応によるものです。イソシアネートは一般的にアミンとホスゲンの反応によって合成され、MDIの場合はアミンとしてMDA(メチレンジアニリン)が使われます。MDIには単分子状の「モノメリックMDI(ピュアMDI)」と、高分子状の「ポリメリックMDI(クルードMDI)」が存在します。通常の合成ではモノメリック体/ポリメリック体の比率が4:6、3:7とポリメリック体が豊富な混合物が得られ、細かな比率は合成条件を変動させることで制御できます。この二つの混合物を蒸留することで「モノメリックMDI(ピュアMDI)」と「ポリメリックMDI(クルードMDI)」に分離されます。基本的にMDIとは「ポリメリックMDI(クルードMDI)」のことを指すことが多いです。「モノメリックMDI(ピュアMDI)」は、一部の特殊な用途や物性調整用に使われています。

性質 モノメリックMDI ポリメリックMDI
形状 白色固体 褐色液体
分子量 250 400前後
凝固点 40℃弱 10℃以下で結晶化
危険性 第4石油類
主な用途先 非フォームでの使用が目立つ 軟質/硬質フォーム
表 MDIの分類(当サイト推定)

市場状況

国・地域 生産量(t) 割合
中国 2,250,000 30%
欧州 1,500,000 20%
北米 1,450,000 20%
その他アジア 1,000,000 15%
日本 180,000 3%
その他 670,000 12%
合計 7,050,000 100%
表 各地域のMDI生産量(2018年、当サイト推定値)
メーカー 生産量(t) シェア
万華化学工業 1,700,000 25%
BASF 1,350,000 20%
Covestro 1,250,000 17%
Huntsman 1,000,000 15%
Dow 900,000 12%
東ソー 350,000 5%
その他 500,000 6%
合計 7,050,000 100%
表 メーカー別MDI生産量(2018年、当サイト推定値)
メーカー 生産能力(t/y) 国・地域
万華化学工業 2,000,000 中国・ハンガリー・米国(計画)
BASF 1,500,000 中国・韓国・米国・ベルギー
Covestro 1,350,000 米国・中国・欧州
Huntsman 1,000,000 米国・オランダ
Dow 800,000 米国・ヨーロッパ
東ソー 400,000 日本
Sadara Chemical 400,000 サウジアラビア
Kumho Mitsui Chemicals 350,000 韓国
住化コベストロウレタン 70,000 日本
表 主なメーカーの生産能力(2018年、当サイト推定値)

MDIは最終製品の近くで合成されており、生産設備は世界中に分散しています。中国では硬質ウレタンフォームの主な用途先である冷蔵機器の需要が一服したためMDI需要も横ばいですが、欧米や中東では今後も需要が増加するとみられ、生産設備の拡張が進んでいます。MDIはポリオールと混合した原液として提供されることが多く、万華化学工業、BASF、CovestroはTDIなど他のイソシアネート類でも上位を占めるほか、PPGなどのポリオール類でもシェアを握っています。日本国内でトップを走る東ソーは35万トンを生産していますが国内市場向けはわずか7.5万トンに過ぎず、中国向けが多くを占めます。近年では経済成長の目まぐるしい新興国向けの需要も増加しているようです。

メーカー 販売数量(t) シェア 生産地 資本
東ソー 75,000 40% 山口県 東ソー
住化コベストロウレタン 38,000 20% 愛媛県 住友化学/コベストロ
万華化学ジャパン 32,000 17% 中国からの輸入 万華化学集団
表 国内市場上位メーカー(2018年、当サイト推定値)

国内市場のシェアは2位に3.8万トンの住化コベストロウレタンと、3位に万華化学工業の子会社である万華化学ジャパン(3.2万トン)が位置します。(万華化学ジャパンは全量中国からの輸入販売です)

今後の見通し

今後の見通しは用途先の3割を占める建築向け硬質ウレタンフォームの需要に左右されるでしょう。人口増加と共に建築設備の近代化が進んでいるため、長期で需要は伸び続ける見込みです。2018年の実績は705万トン、生産能力は800万トン超ですが、5~10年以内に生産量は900万トンを超え、設備の拡張と共に生産能力も1000万トンを超えると見られています。TDIに比べて危険性や安全性への懸念も少ないため、需要減少要因もありません。

イソシアネート類・ポリオール類といった石油化学品の性能向上、生産技術革新はこれ以上期待できないとされており、MDIも既存技術に代わる製品は生まれない可能性が高いです。ただし、組成変動によるウレタンフォームや塗料、接着剤などの研究開発は日々実施されているため、MDIを原料とした製品の性能は向上し続けるでしょう。

まとめ

市場においてポリイソシアネート類の大半を占めるMDIは、人口増加に伴う建築物の増加によって今後も需要が伸び続けていく見込みです。建築向けの比率が低い中国よりも欧米や中東、新興国での生産設備拡張が目立ちます。MDI自体の技術革新が起きる可能性は低いですが、最終品の性能は向上し続けるのではないでしょうか。

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