TDI(トルエンジイソシアネート)

TDIは芳香族イソシアネートであり、その名の通りトルエンの誘導体から合成されます。軟質ウレタンフォームが主な用途先で、他には塗料用樹脂や接着剤原料として使われています。このページではTDIの製造法や特徴、原料メーカーなどの市場状況を解説します。

目次

TDIの用途

世界 中国 日本
軟質PUF(家具類) 40% 40% 15%
軟質PUF(車両用) 10% 15% 60%
軟質PUF(その他) 35% 25% 10%
軟質PUF以外 15% 20% 15%
合計 100% 100% 100%
表 各地域のTDI用途(2020年、当サイト推定値)

TDIの主な用途先を見ると日本では85%、中国では80%が軟質ウレタンフォーム(軟質PUF)であり、世界全体でも85%を軟質PUFが占めます。軟質PUFはソファーやベッドなどの寝具類や座席用のクッションとして使われているため、日常生活では必ずTDI由来の素材を使った製品に触れることになります。用途をさらに分類すると、中国や世界全体では車両用軟質PUFのシェアが10~15%程度しかありませんが、自動車産業を主とする日本では同製品向けが60%を占めます。

ちなみに軟質PUFの主原料はポリオール、イソシアネート、発泡剤、触媒です。触媒によって促進されるポリオールとイソシアネートの効果反応中に発泡させることで、空間を含むスポンジ状の硬化物ができ、これが軟質PUFとなります。使われるイソシアネートとしてはTDI以外にもMDIなどがあります。

TDIの合成法

図 イソシアネートの原料チャート(当サイト推定)

イソシアネート類のほとんどはアミンとホスゲンの反応によって合成されますが、TDIの場合はアミンとしてトルエンジアミン(TDA)が使われます。合成に使われるホスゲンは脱ガス化によってTDIから除去されるため、ホスゲンによる危険性はほぼありません。TDAもホスゲンも元をたどると石油由来の原料です。合成時に2,4-TDIと2,6-TDIの異性体が発生しますが、2,4-TDIの割合によって製品種が分けられ、80%のものは一般的にTDI-80と呼ばれています。TDIの合成は他のイソシアネート類同様にホスゲンを使う危険な反応であるため、川上に位置する石油化学メーカーによって大規模に生産されるのが一般的です。

ちなみにTDAはトルエンと混酸に含まれる硝酸を反応させてジニトロトルエン(DNT)を合成し、これを水素と反応させて合成されています。

市場状況

TDIは石油由来の原料を使用する大量生産品であるため、価格・総需要量は石油価格や世界景気などのマクロ経済の動きに左右されます。2018年の生産量は世界で220万トンを記録し、うち中国が60万トン、日本が5万トンです。

生産量(t) 比率
Covestro 550,000 25%
BASF 500,000 25%
万華化学集団 400,000 20%
滄州大化集団 100,000 5%
その他 650,000 25%
合計 2,200,000 100%
表 メーカー別生産量(2018年、当サイト推定値)
地域 生産能力(t/y)
Covestro 米国、中国、ドイツ 550,000
BASF 米国、ドイツ、韓国 600,000
万華化学集団 中国、ハンガリー 850,000
滄州大化集団 中国 150,000
Hanhwa Chemical 韓国 150,000
Narmada Chematur Petrochemicals インド 50,000
三井化学 S K Cポリウレタン 日本(大牟田) 120,000
東ソー 日本(南陽) 25,000
表 主要メーカー別生産能力(2018年、当サイト推定値)

メーカーは生産量1・2位がドイツのCovestro、BASFであり、この2社だけで世界シェアの半分を占めます。3・4位は中国企業の万華化学集団、滄州大化集団で、合計シェアは25%程度です。ちなみに1・2位のドイツ勢は中国でも上位を占め、Covestroが1位、BASFが3位となっています。国内では約3万トンを生産する三井化学SCKポリウレタンがTDIのシェアトップを誇りますが、世界でみるとシェアはわずか1.4%です。軟質PUFの多くは生産に技術を要さない寝具・ソファー類、その他用途向けのクッションとして使われるため、コストが低く人口の多い地域で生産されます。特に近年では万華化学集団等中国勢の新規プラント立上げが旺盛で一昔前とは勢力図が変わろうとしてきています。

また日本のTDIメーカーはどちらかというと規模を縮小傾向であり、競合他社に単純なコスト競争力で対抗するのは年々厳しくなってきており、エリアを絞っての販売戦略等を持っています。

今後の見通しと課題

世界全体では新興国における生活様式の変化によるベッド・ソファー類の定着、自動車の普及という2つの流れが軟質PUFの需要拡大に貢献し、長期ではTDIの需要量が伸びていくと予想されます。ただし、コロナの影響で自動車の生産台数が減少していることもあり、20年以降は短期スパンで冷え込みが見られるでしょう。地域別でみると日本は人口減少影響で長期の需要減少が避けられませんが、中国・その他アジア地域・北米は伸びていくとみられます。欧州は弱いペースで伸び続けるでしょう。

先進国では安全性の問題からTDIを避ける動きが一部で見られます。TDIは喘息など呼吸器系の問題を引き起こす他、皮膚刺激性に関して懸念される部分があり、特にイソシアネート類の中でも蒸気圧が高いため、軟質PUF製造時に未反応のTDIが作業員の健康に影響を与える可能性が指摘されています。自動車産業の規制が厳しいEUでは車両用軟質PUFにMDIが使われるなど、安全面での懸念がTDI需要の伸びを鈍化させるかもしれません。

まとめ

TDIはトルエン由来のアミンによって合成され、軟質PUFの必須成分として使われています。今後は人口増加とともに世界で需要が伸びていく見込みですが、安全性への懸念から用途次第では避けられるかもしれません。

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