米国のドナルド・トランプ大統領は2025年2月1日、同国の3大貿易相手国であるカナダ、中国、メキシコからの輸入品に対して大幅な関税を課す大統領令を発表しました。この措置は、特に化学業界において世界のサプライチェーンに大きな混乱をもたらす可能性があると懸念されています。
大統領令は2025年2月4日付で発効し、カナダおよびメキシコからの輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の関税を課すとしています。ただし、カナダからのエネルギー輸入品(石油、天然ガス、電力、石炭、ウラン、重要鉱物など)は例外とされ、10%の軽減税率が適用されます。
これに対しカナダ・中国・メキシコの各国政府は対抗措置を取る意向を示しました。
2025年2月3日の朝、トランプ大統領はメキシコのクラウディア・シェインバウム大統領と電話会談を行い、メキシコに対する関税の発動を1か月延期することに同意しました。さらにその日のうちにカナダのジャスティン・トルドー首相とも電話会談を行い、カナダへの関税も少なくとも30日間延期することで合意しました。
アメリカ化学工業会(ACC)の貿易データ分析によると、米国は2023年に300億ドルの化学製品貿易黒字を計上しており、低コストのグローバル供給体制によって国際競争力を維持しています。米国の化学品輸出の半分以上は石油化学製品およびその誘導体(プラスチック樹脂など)です。
2023年には、米国の化学製品の出荷の26%が輸出で占められており、輸入は米国内の化学製品需要の22%を占めていました。米国はカナダとメキシコに対して253億ドル、中国に対して22億ドルの貿易黒字を維持しています。ACCによれば、カナダ・メキシコ・中国は米国の化学品輸出の最大の相手国であり、2023年には合計で713億ドル(全体の約44%)を占めています。内訳は、カナダとメキシコがそれぞれ約17.5%、中国が9%です。一方で、カナダは米国にとって最大の化学品輸入元(242億ドル、全体の18%)であり、中国が9%、メキシコが3%(6位)と続いています。
また、化学品貿易の約57%が企業内取引であり、米国内に事業拠点を持つ企業の製造活動を支えるために輸入されているとACCは指摘しています。
ACCはこれまで一貫して関税の撤廃と貿易摩擦の緩和を訴えてきており、米国による関税発動は、国内では調達困難または高コストとなる重要な原材料・部品の供給を断ち、米国の化学産業を直接的に傷つける結果となると述べて、大統領令の背景にある問題の解決に向け、すべての関係国が早急に協議することを求める声明を出しました。