プラスチックのような有機素材には難燃剤が欠かせません。イソシアネートとポリオールの反応化合物であるポリウレタンフォーム(PUF)も有機素材であり、結合中に酸素原子を有するため比較的燃えやすい素材といえます。難燃剤にはハロゲン化合物やリン化合物、窒素化合物などがありますが、PUFでは主にリン系化合物が使われています。
難燃剤の効果
難燃剤はさまざまメカニズムで効果を発揮しますが、主なメカニズムは「①燃焼時に発生するフリーラジカルの補足」、「②不燃性ガスの放出による延焼の遮断」、「③吸熱反応による除熱」、「④不燃性物質の形成」が知られています。必ずしも難燃剤がこれら4つの効果を全て発揮するわけではなく、主とするメカニズムは難燃剤によって異なります。難燃剤のほかに難燃助剤を配合し、相乗効果を期待する場合もあります。もちろん難燃剤自身も燃えない物質でなければなりません。
難燃剤に求められる効果は防火性だけではありません。一般的にPUFでは重量比で3%前後の量が配合されるため均一に混ざる必要があり、硬化前のポリオール及びポリイソシアネートと高い相溶性を示す必要があります。同様に硬化後の製品から溶出してはいけないためPUFとの相性も重要です。配合によって物性や耐久性が変化しないほか、燃焼時に有毒な成分を放出しないことも求められます。このようにプラスチック、PUFなど有機素材によって適切な難燃剤が変わるため、素材にあったものを選ぶ必要があります。外気との接触面積が広い軟質PUFは難燃剤の効果が長期で低下しやすいため、硬質PUFよりも多く配合される傾向にあります。
リン系難燃剤の市場状況
リン系難燃剤の近年の国内市場規模は4,000Mt前後程度、世界では凡そ10万トン前後と推察されます。市場規模では中国>欧州=北米>日本>その他となり中国だけで3割程度を占めているとも言われます。
リン系難燃剤はリン酸化合物とアルキレンオキシドの反応によって合成されます。国内ではPUFが用途先の9割を占め、特に断熱材として使われる硬質PUFが半分以上を占めます。冷蔵庫向け断熱材は難燃剤の配合が必須とされているうえ、建築物向けでも難燃性が求められるようになっています。軟質PUFは硬質PUFほど難燃性が求められないため難燃剤の使用量が少ないですが、自動車のシートに使われる製品には含まれています。また、欧州ではベッド・ソファーなど家具類の難燃性規格が厳しいところもあり、市場によっては軟質PUFが占める割合は高くなります。PUF以外でははプラスチック類や塗料が主な用途先です。
ちなみにアメリカ保険業者安全試験所が定める製品安全規格としてUL規格が知られており、UL94規格はプラスチックの難燃性を表しています。UL94HBFは遅燃性、UL94HF-2は低難燃性、そしてUL94HF-1は高難燃性のフォーム製品を表す規格です。難燃性区分は金網上にサンプルを置き、バーナーで燃焼する水平燃焼試験で評価します。
各国の主要メーカーは下記の通りになります。
メーカー | 拠点 |
---|---|
LANXESS | ドイツ |
ICL-IP | ドイツ・米国 |
大八化学工業 | 日本 |
山東黙鋭科技 | 中国 |
江蘇雅克科技 | 中国 |
浙江万盛 | 中国 |
自動車向けはメーカーの難燃性規格を満たす目的で配合されますが、建築物や家具向けも各国で耐火規制が定められるようになり需要が伸びました。PUFメーカーがイソシアネートやポリオールなどの原料も生産していることが一般的ですが、難燃剤は石油化学製品ではないため無機物質に特化しているメーカーによって生産されています。大八化学工業は国内最大のリン系難燃剤メーカーであり、国内市場の約7割を生産シェアを占めています。同社は中国向けにも生産しています。
世界全体では建築物や自動車、ベッド類の増加によってリン系難燃剤の需要も伸びていくとみられ、5年で10%のペースが予想されます。日本や欧州では横ばい、北米では年率2%、中国では年率3%の増加が見込まれ、アジア新興国では4~5%増の見込みです。
リン系難燃剤の研究開発テーマは環境負荷の低減が主流です。難燃剤に含まれる溶剤は環境悪化要因となるほか、自動車工場や建築現場において作業環境の悪化を伴う可能性があり、VOCの削減が求められています。VOC削減は他の原料でも同様に開発テーマの一つとなっています。また、脱ハロゲン化も潮流です。ハロゲンを含む難燃剤は製品の引火時にハロゲンガスを発生させることで優れた難燃性を有するものの環境面での懸念があります。製品によってはハロゲンレスの規格が設けられているため、ハロゲン含有難燃剤と同等の性能を有する脱ハロゲン難燃剤が研究されています。
まとめ
難燃剤には様々な種類があり、PUFではリン系化合物が使われています。自動車・建築物・ベッド類の需要増加に加え、耐火性規格の設定によって世界的に需要が増加する見込みです。生産メーカーは他のPUF原料のように共通化されておらず、国内では1社がシェアを握っています。リン系のなかでもハロゲンを有するものが難燃性に優れますが、環境・健康面での懸念から脱ハロゲン化が進められています。